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第29話
「食事は?」とやっと広瀬が東城に聞いてきた。
「軽く食べた」と答え、東城は、広瀬に水割りを頼んだ。彼は手慣れた様子で水割りを作り、グラスを置く。
椅子には座らず、「どうしたんだ?」と東城はグラスに口をつけながら宮田にではなく広瀬に聞いた。
「岩下教授の事件の捜査は打ち切りになりました」と広瀬は言った。
「そうか。結局自殺だったのか?」
「おそらく」と広瀬は答える。「死因は、睡眠薬の過剰摂取です。岩下教授には循環器系の持病があり、過剰摂取といっても、通常の量より多めに飲んだだけですが、亡くなったそうです。体調が悪かったのかもしれません」
「事故か自殺か、だな。仕事が減ってよかったじゃないか。お前いつも忙しいって愚痴ってただろ」と東城は宮田にいう。
宮田は、じろっと東城をにらんできた。「自殺だとしたら、実験がらみかもしれないんですよ。実験だとしたら、殺人と同じようなものです」と彼は言った。
「証拠がなきゃどうしようもないだろ」と東城は言った。「熱心に追っかけてたお前には気の毒だけど、そういうこともあるさ」
「打ち切りになった理由は、上からの圧力で、もみ消されたんです。隠ぺい工作が働いてるんです」
「上からの圧力?そりゃ、また、大袈裟だな。向こうの所轄が通常手続きで判断して、大井戸署は異議を唱えなかっただけじゃないのか」
「違います」と宮田は言った。「向こうの所轄の奴に聞いたんですが、あっちはあっちで事件化する予定だったのが、急になくなったそうです。島根県警にも聞いたんですが、島根の自殺の件も、捜査は打ち切りです」
「島根県警もか?そもそも連中がつついてきて騒がしくなったんじゃなかったのか?」東城は宮田の隣に腰かけた。広瀬の方を見るが、彼はまた無言だ。
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