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第30話

「そうです。島根の担当者は捜査を続けたがってました。自殺案件だからということで捜査は終わりになったそうです。もともとネットでも書き込みのあった事件ですから、また、あることないこと書かれるとやっかいだって言ってますよ。上は圧力はかけても尻拭いはこっちだからって怒ってました」 「島根にまで圧力をかけるって、誰が動いてるんだ」 「警察庁だっていうことでした」と宮田は言った。「サッチョウのお偉いさんの下の下からそれとなく連絡が入ったらしいです。直接やめろって言わない辺りも、官僚機構の圧力っぽいですよ。命令じゃないけど察しろっていうことだったらしいです」 「よくそこまで知ってるな」 「島根じゃもっぱらの噂らしいです。圧力があったせいで、逆に何の陰謀だってことになってるそうです」 「噂に敏い宮田ならではの情報ではあるな」と東城は言った。「陰謀だなんだか知らないが、打ち切りが正式に決定したなら仕方ないんじゃないか」 宮田は大きくため息をつく。「ただの自殺とは思えませんよ。盗聴器だってあったのに」と彼は言った。そう言いながらカウンターにうつぶせになる。 カウンターで何かぶつぶつ宮田が言いながら彼は半分眠っていた。東城は、もう一杯広瀬に水割りを作ってもらう。 そして広瀬に聞いた。「それで、なんでまた、うちに?」 「さあ」と広瀬は答えた。「大井戸署の近くで飲んでて、店を出たら、こっちにどうしても来たいって言われて」 東城が何か言おうとしたとき、電話が鳴った。 何度か鳴っていて切れる。そして、また、電話が鳴る。東城は宮田の肩をつかみ揺り起こした。 「お前、電話」と言った。 宮田は、むにゃむにゃな言いながらポケットを探る。画面を見るとすぐに電話をとった。 「はい。ああ、ごめん。いや、寝てないよ」と彼は言った。「今?広瀬の家に来てる。一緒に飲んでて、飲み足りないからって誘われた」そう言いながら、宮田は席を立ち、バーカウンターから離れ、話をしながら廊下に出て行った。 東城はその後ろ姿を見送った後、広瀬に向き直る。 「なあ、俺、見誤ってたかもしれない」 「なんですか?」 「今の電話、佳代ちゃんだったぞ」宮田のスマホの画面が見えたのだ。 佳代ちゃんは南宿署勤務の広瀬の同期の警察官だ。たいそう美人でさらに有能なので、有名人でもある。その高嶺の花の佳代ちゃんが、宮田ごときに親し気に電話してくるとは、東城には驚きだった。 広瀬はうなずいた。「そうですか」 「知ってたのか?」 「いえ」 「佳代ちゃん、ああやってちょくちょく宮田に電話してきてるんだな。思いもよらない展開があるかもしれないぞ」と東城は言った。「蓼食う虫も好き好きってことだな」 「佳代ちゃん、虫呼ばわりされたら怒ると思いますよ」 東城は笑った。「もっともだ。本人たちの前では言わないさ」そう言っていたら宮田が帰ってきた。先ほどよりは表情が明るかった。 また座ってビールを飲もうとする彼を静止して東城は言った。「お前は、もう終わりにしろ」 そして、ビールを片付けてしまった。 「なんでだよ」と宮田が広瀬に聞く。 「さあ」と広瀬は言った。 「もう飲まないの?」宮田は不満そうだ。 広瀬はうなずいた。「泊まりたいなら、風呂は沸かすよ。2階の部屋も用意するから」

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