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第31話
翌日の夜、広瀬が大井戸署を出るころに、東城から連絡が入った。岩下教授の家の近所にいるというのだ。お前も来いという連絡だった。
待ち合わせた駅のところで、「盗聴器が仕掛けられてたんだろう」と東城が言った。「宮田が言ってたタイプは、電波が飛ぶのがせいぜい、数百メートルだ。宮下教授の家の付近を見て回ったら、盗聴のことがわかるかもしれないと思ったんだ」
「でも」と広瀬は言った。驚いた。東城が、岩下教授の件にここまで関心があるとは思わなかった。
「お前の奥歯のこともあるしな」と東城は説明する。「事件じゃないってことになると、どうも、すっきりしないだろう。わからないならわからないなりに、この件は終わらせたい」
岩下教授の家は住宅地にある。低層の住宅が並んでいる地域だ。半径200メートルの範囲で、盗聴の電波を受信する家があるのだろうか。
広瀬はこの前会った近所の人々の顔を思い出した。あの中の誰かが、盗聴に手を貸したのか。みな善良で平和そうだった。
「この辺りの車じゃないのが頻繁にきていたら住民が気づく」と東城は言った。「だから、車で電波を拾うためにじっとしているというのは難しいだろう。家で電波を拾っていると思うんだ。ここは比較的古い街だ。人の流出入の少ない地域で、近所の住民はお互い知り合いだ。町内会もしっかりしている。とすると盗聴している可能性が高いのは、数少ないアパートや借家の住民だろう」
解説されるとそうなのかな、とも思えてくる。
広瀬は東城と一緒に家を一軒一軒みていく。そうしながら、自分のタブレット端末に記録していった。表札や郵便受けなど情報量は多い。
ぐるっとまわって、岩下教授の家の前に来た頃には、かなり夜遅くなっている。東城の理論で言えば、自分たちもこの街の住民からするとかなりの不審者だ。通報されないようにしないと、と広瀬は思った。
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