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第33話

「何が目的だ?」と東城は聞いた。視線はずっと広瀬の後ろの男に注がれている。 「お前も、動くな。話もするんじゃない」と男は言った。そして広瀬に言う。「ベルトを抜いて自分の足を縛れ。変な動きをしたら容赦はしないからそのつもりで」 その殺気は本物だった。しかも、男は落ち着いていた。狂った様子もない。 広瀬はゆっくりと手を動かした。東城は視線を変えていない。男が動けばすぐに東城も動くだろう。 そこに、思いがけない声が別な方角からした。「融!それはあきちゃんだ。奴らとは違う!」 広瀬は声の方角を見た。向こうから男が小走りでやってくる。忍沼拓実だった。 いつもと同じようにだぼっとしたシャツとズボンを着て、肩掛けカバンをたすき掛けにしている。肩で息をしていた。 「前に話しただろう。あきちゃんをそんな風に脅かしたらだめだ」 ナイフを押し付ける手がやや緩んだ。 だが、東城がその隙をついて動こうとしたのを見て、また、力が入る。 忍沼は、東城に言った。「あなたが動くと彼も動くことになる」 東城は、初めて男から視線を忍沼に移した。 「誰だ?」と彼は聞いた。 忍沼は言う。「融を刺激しないでほしい。ちょっと後ろに下がって」 広瀬が東城に告げた。「東城さん。彼は忍沼拓実さんです」 東城は、それを聞いて忍沼を見ながら彼が言ったとおりに後ろに下がった。 融と呼ばれた男も、忍沼に言われ、ナイフを下げた。 そして、彼もまた後ずさりし広瀬から離れた。ナイフがなくなった広瀬は、走って融から遠ざかり、東城の近くまで行った。 振り返ると融の手にはすでにナイフはなかった。マスクをつけていて、太い眉と小さな黒い目だけが彼の顔だ。 忍沼が広瀬の方を向いた。「どうしてここに?融となんで?」 広瀬は言った。「俺たちは、岩下教授の家にいる彼を見たんです。なぜ、彼は岩下教授の家に?」 「そんなことより、お前にナイフ突きつけてたんだぞ」と東城はいら立っている。 「落ち着いて。説明はする。ここではなく、場所を変えよう」と忍沼は言った。 「それなりの説明だろうな」と彼は忍沼を見下した。 忍沼はうなずいた。

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