34 / 193
第34話
忍沼は三人を連れて場所を移動した。
公園を出て、20分ほど歩き、駅と大きな道路を越えた。そこは、それまでの街並みとは違う、ごみごみとした地域になった。忍沼はその場所をよく知っているのだろう。辺りを見回すこともなく、歩いていく。
そして、高架下にたどりつくと足を止めた。
上は道路で、小さなトンネルのような場所だ。
忍沼は言った。「こんなところでだけど、ここなら盗聴の心配がないから」
東城は広瀬の後ろに立っていた。「岩下教授の家の盗聴は、お前たちじゃないのか?」
忍沼は、「この人は、東城さん?」と広瀬に聞いた。東城の剣幕にやや困ったような口調だった。
「そうです」と広瀬は言った。「あなたは、岩下教授の家になぜ侵入していたのですか」と融と呼ばれた男に聞いた。
「あ、説明の前にね、こんにちは、じゃなくて、こんばんは」と忍沼は今更、広瀬と東城にあいさつした。「それと、はじめまして。僕は、忍沼拓実」と東城に告げた。「あきちゃん、広瀬彰也さんとは、子どものころの友人なんだ。こっちは、元村融。僕やあきちゃんと一緒で、子どものころ実験の被験者だった」
元村融は、じっと立っているだけだ。全く警戒をといていない。東城も挨拶には答えなった。
忍沼は、はあ、っとため息をついた。
「岩下教授が亡くなったから、様子を見に来たんだよ」と彼は言った。「融と僕の二人でね」
「家の中に入っていただろう。住居侵入だ。何をしていたんだ?」東城が威圧的にいう。
「まって。ここで逮捕されるわけにはいかないんだ。君たちだって、僕らを逮捕したら、岩下教授の実験のことがわからなくなるよ」と忍沼は言った。
「家の中で、何をしていた?盗聴器があることはわかっているんだ。回収にでも行ったのか?」
「まさか。わざわざそんなことはしない」と忍沼は答える。彼は融の方をむいた。「融、みつかっちゃったのは失敗だったから、答えるね」
融は返事をしなかった。
ともだちにシェアしよう!