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第35話

「岩下教授は、デバイスをもってた。完成品だ。実験は、かなり進んでいて、完成品ができていたんだ。それを、岩下教授がもっていたらしいんだ。だから、探しに家に入った」 「完成品?」と広瀬は聞き返した。 「歯の奥に入れるデバイスだよ。前に言ったよね。僕たちの実験でも使ってた。他にも大人の実験もしてた。それが、最近やっと完成したらしいんだ。当事者たちはマスプロって呼んでた」 「岩下教授の家にそのマスプロはあったんですか?」 忍沼は否定した。「見つからなかった。小さいものだから、わからないのかもしれない。警察もかなりあの家を捜索したんだろう。でも、見つからなかったんだから、よっぽど、わからないところに隠してあるのか、それとも、誰かがすでに持って行ったのか」 「当事者とは誰ですか?」 「岩下教授や、滝教授や、その他誰かわからないけど、関係者だよ」と忍沼は言った。「あの家の中での会話はある程度はわかっているんだ」 「やっぱり、盗聴していたのか?」 「そうだけど、僕たちを捕まえても、君には何の得もないよ、東城さん」と忍沼は答える。 「君と僕たちは接点もないし、逮捕したらかえって、面倒なことになるよ。それに、捕まえないなら、あの家での音声データを君たちにあげる」 彼は、ポケットの中からICレコーダーをとりだした。 「これは、ほんの一部だよ」 「他にも持っているってことか?」 忍沼の表情はほんの少し自慢げになった。「ああ、これだけじゃないよ。ついでに言うと、持ってるのは岩下教授の家の声だけじゃない。まだ、詳しくは言えないけど」 東城は不快そうな顔だ。 「聞いてみて」 忍沼はスイッチを押した。

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