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第38話

広瀬が店に着くと既に橋詰が来ていた。自分の方が到着が早いと思っていたので意外だった。 橋詰は、亡くなった父信隆の親友で、現在、警察庁の幹部だ。広瀬の後見人を自任している。広瀬が警察庁のオジサンたちとよぶ父の友人たちの中で、最も頼りにしている存在だ。 待ち合わせたのは行きつけのホテルの中にあるバーだった。 カウンターの前に腰かけてすでに水割りを飲んでいる橋詰に挨拶し、広瀬は隣の席に座った。 橋詰は広瀬のために水割りと軽いつまみを注文してくれた。 「ありがとうございます」 「この前のお墓参り以来だな」と橋詰はいう。「この前は秋らしいいい天気だった」 東城もついてきた両親の命日の墓参りで会ったのだ。 「はい」 広瀬の両親の墓参りで会ったのだ。毎年必ず来てくれている。 しばらく水割りを飲みつまみを食べながら雑談をした。天気のことに始まり最近流行しているスマホアプリのことを聞かれたりした。 普通の会話の後、「今日は彰也が頼みごとがあるというから、どんなことを要求されるのかと思って慌ててきた」と橋詰は言った。笑っていたから冗談だろう。「どうしたんだ?困ったことでもあるのか?」 優しそうな笑顔に申し訳ない気分になる。 「仕事のことです」 橋詰はうなずく。 広瀬は思い切って話をした。 岩下教授の死と実験の疑いがあること。事件化はされることなく処理されたこと。 橋詰は静かに広瀬の話を聞いていた。いつもそうだが、橋詰は広瀬が話すことは口を挟むことなく聞いてくれる。 途中で、一回だけ橋詰は手を挙げて、広瀬と自分にお代わりをもらった。そして、話しを促した。

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