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第39話

広瀬は、水割りを飲んで、さらに言葉をつづけた。話に時間がかかったわけではないが、もう一杯飲んだ。 用心して実験用と思われるデバイスや自分の歯茎の奥にある金属の話はしなかった。 「どこからかの圧力があったというのか?」 「そうだと思います」 橋詰は首を横に振る。「自殺案件だろう。誰かがわざわざ圧力をかける必要性がないと思うがな」 ウィスキーが濃かったせいか頭の中が少しだけぼうっとしてきたのを振り払って食い下がる。 「でも、亡くなったのはこれで3人目なんです」と広瀬は言った。 「それで、私に頼みとは?」 「警察庁内で誰が、圧力をかけたのか教えてください」 橋詰は、分かったといった。圧力がかかったのかどうかも含めて調べよう、と。 「頼み事なんてめったにしない彰也の頼みだからな」 広瀬は礼を言った。 そしてあれ、と思った。酔いがいつもより回っている。数杯飲んだくらいではこうはならないはずなのに。なんだかとても眠い。 その時、橋詰に電話がかかってきて彼は席を外した。待っているうちにうとうとしてしまったようだ。 カウンターで肘をついてもたれていると肩を優しくたたかれた。 「疲れているのか?」橋詰が子供にするように自分の髪をなでる。「少し休んだほうがいい」 顔を上げると手を差し伸べられた。「ホテルの部屋をとっている」 広瀬はうなずいた。 エレベーターに乗っている間も眠くて仕方なかった。 立ったまま寝ていたのかもしれない。気が付くと部屋のベッドの上だった。橋詰が自分を見下している。 「彰也。寝る前に一つ教えてくれないか」 「なんでしょうか?」 「墓参りに行ったとき、伯父さんご夫妻の他にもう一人いたが、彼は、誰だ?」 広瀬は、ぼんやりとした頭で考えた。 なぜ、橋詰はこんなことを言うのだろうか。もう一度質問されたような気がするが、自分が何と答えたのかは覚えていなかった。

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