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第40話

東城は帰り道で広瀬からの電話に気づいた。 電話してくるなんて本当に珍しいことだ。余程慌てていない限り、広瀬はメールですます。 今日は、岩下教授の事件の件で警察庁の「オジサンたち」の一人に会うと言っていた。もう終わったのだろうか。 東城は電話に出た。「もしもし?どうしたんだ?」 ところが「東城くんだね?」と予想もしない声がした。 聞きなれない年配の男の声だ。 自分のスマホを持つ手がこわばった。返事をしないでいると、また、聞かれた。「東城くんではないのかね?」 「そうだが、誰だ?」と言った。「広瀬は、どうしている?」 「彰也は、ここにいる。迎えに来たまえ」声の主はそういうと、住所を口にした。中規模の老舗ホテルだ。部屋番号も彼は伝えてきた。 東城はすぐにタクシーに乗りホテルに急いだ。 電話の主は広瀬があっていた「オジサンたち」の一人だろう。だが、ホテルの部屋にいるというのはどういうことだ。 フロントの前を通り過ぎ、エレベーターのボタンを押してイライラしながらゆっくりとエレベーターが上がっていくのを待った。 上のフロアにたどり着くと足早に部屋に向かう。ドアのベルを何度も鳴らした。 小さく鍵を開ける音がし、中から男が顔を出した。 ちょっと前に見た顔だ。彼は東城を認めるとドアを開けた。東城は押しのけるように中に入った。 礼儀なんかかまっていられない。奥のダブルベッドに広瀬が横たわり、黒髪をシーツに散らしていた。上からブランケットがかけられている。

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