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第44話
東城は、話題を変えたくなった。「広瀬が警視庁に入ったのは、両親を殺した犯人を捜査するためだと思っていました」
「彰也の目的はそれだ。だが、信隆の事件には、私としては、正直深入りしては欲しくない」
「なぜですか?あなたは犯人を捜していないのですか?」
「捜している。だが、下手な深入りは危険だ。あまりよい結果になりそうにない。慎重に事を進める必要がある。それに、犯人が見つかったからと言って信隆は戻ってこない。もし、信隆に会えるのなら、私はどんなことでもするが、そんなことはありえない。亡くなった者のために彰也を危険に巻き込むことはしたくない」
「危険なのは、警察庁の幹部が関係しているからですか?」
「そういうことをまことしやかにいう人間がいるということだけでも、この問題が大きいことがわかるだろう」
ベッドの方で、かすかに声がし、動く気配があった。
目を向けると、広瀬が寝返りを打った拍子に目を覚ましていた。
彼の目が、こちらをぼんやりとみている。しばらくして口が動いた。「東城さん?どうしてここに?」
東城は立ち上がり、ベッドの脇に歩いた。「迎えに来たんだ。帰ろう」と彼に告げた。
広瀬は、少し寝ぼけているようだった。「橋詰さん、俺、寝てしまったんですか?」
のろのろ起き上がりながら質問している。東城と橋詰が一緒にいることにとまどっているのだ。
橋詰は椅子に座ったまま優しい声で広瀬に言った。「疲れていたんだろう。東城君と一緒に、帰って休みなさい」
広瀬はベッドの上で座り込み東城を見上げた。透明な目が、自分をとらえる。東城は手を伸ばし、彼の手を引いてベッドから立ち上がらせた。
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