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第46話
ベッドの中で、東城が、思い出したように広瀬に聞いてきた。
実際は、ずっと胸のうちにあったことだが、思い出したようにふるまったのかもしれない。そんな口調だった。
「お前の、お父さんってどんな人だったんだ?」
広瀬は、口ごもった。「どんな人って、そうですね」と彼は言った。「覚えているのは、優しかったことと、仕事してたことです。よく、家でも仕事していました。帰ってきたと思ったら、また、すぐに出てしまったり」
「そうか」
「時間がある朝は、学校に一緒に行ってくれました。途中で、道草したりして、遅刻したのに、門のところで先生に、全然悪びれずに偉そうに大きな声で挨拶してました。かなり、自信家だったんです。おまけに世話好きというか、おせっかいなところもあって。例えば、仕事で困っている人がいるとすぐに助けようとしたり、指導しようとしたり。学生時代からそんな感じだったらしいです」そこまで言って広瀬は口を閉じた。
「お前を実験に参加させたのも、自信家だったからかな」
「そうかもしれません。自分なら、実験も組織の中のことも、全てうまくやれると思っていたのかも」そして、また、記憶をたどる。「俺は、あんまり覚えていないんです。父のことも母のことも。今言っている話も、自分の記憶なのか、誰かから聞いたことなのか、わからない。ほとんどが、誰かから聞いたことを自分の記憶のように思っているんでしょうね。あの写真も、旅行に行ったのは覚えていますけど、写真を撮ったことは覚えていない」
東城は、広瀬の髪をなでた。「そうだよな。亡くなったとき、お前、まだ、小学校1年生だもんな。覚えてること少ないのに、聞いたりしてごめんな」
広瀬は、首を横に振った。「いいんです。本当は、もっといろんなこと話したいです。覚えていないから話すことがないんですけど。だって、俺が話しをしたら、東城さんの頭の中にも、俺の両親のことが記憶になるでしょう。話さないと、そのうち、両親は、完全にいなくなってしまう。だから、本当の記憶ではなくても、話して、少しでも覚えていてほしい。俺も、忘れないようにしたい」
東城は、そうだな、とまた、小さい声で言った。彼の手が髪の毛から頬におり、唇をなぞってくる。
広瀬は伸ばされた東城の手を取ると自分の胸の上に置いた。大きくて暖かい。熱がじんわりと伝わってくる。
顔を見ると東城は目を閉じていた。「お前の心臓が動いてる」と彼は言った。「いつも通り」その声は思っていたよりも不安そうだった。広瀬には彼が何を心配しているのかわからなかった。東城は自分のことを必要以上に案じている。
広瀬は彼の顔に近づけて唇を合わせた。じっと彼を見て、いつも通り何か冗談を言ってほしかった。
だが、東城は何も言わなかった。
目を閉じたままだ。ふいに彼は広瀬を自分の胸に抱き込んできた。そして、そのまま放そうとしなかった。
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