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第47話

数日後の夜、広瀬が帰ると、すでに夕食が準備されつつあった。 テーブルの上にフォーク、スプーンがならび、大きなガラスのボウルにサラダが山盛り入っている。 食い意地が張ってるとは思うが、鼻をくんくんしてしまう。 いい匂いだ。 つられてキッチンに入ると東城が鍋に火を入れて温めなおしていた。 そう暑いわけではないのに上はTシャツ姿だ。ぴったりしたシャツを着ているから広い背中から腰にかけての後ろ姿がきゅっとひきしまっているのがわかる。 「カレーですね」背中から話しかけた声が思っていた以上に弾んでしまった。子供みたいでちょっと恥ずかしい。 東城が振り返った。「ああ。カレーライス」 そういいながら大真面目にカレー鍋をかき回している。 鍋の脇に置いてある石田さんのメモに、温めるときには焦げ付かせないよう必ず鍋を見張りきちんとかき混ぜてください、と厳しめに書いてあるせいだ。 ちょっとからかわれているんじゃないかな、と思ったが本人には言わなかった。 東城の隣に立って鍋をのぞき込むと、カレールーの中にジャガイモやニンジン、肉がゴロゴロと入っている。 こういう言い方があるかどうかは知らないが、あえていうなら、正統派の家カレーだ。スーパーで売ってるカレールーを使って家でつくるやつだ。石田さんはどちらかというと手の込んだ料理かヘルシー料理嗜好なので、このような、誰でも失敗しませんという料理はめったに作らない。 「美味しそうですね」と広瀬は言った。 「たまにはいいだろう」と東城がいった。そしていたずらっぽい笑顔になり、少しかがんで広瀬の頬に軽くキスをした。「おかえり。着替えておいで」 広瀬はうなずいた。

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