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第52話
朝、起きると外は曇っていた。ホテルから見える湖はくすんでいた。雲がかかり富士山もみえにくい。
どんより暗い外を部屋の大きな窓から横目にみてルームサービスで朝食をとった。
たっぷりの食事と薫り高いコーヒーが美味しい。
広瀬は、食事をしながら古いガイドブックと今のガイドブックを見比べた。道そのものが変わっているところもある。その日まわる順番を東城と相談してきめた。
チェックアウトの前に、仕事の電話で支度が遅れた東城を部屋に残し、広瀬は先に出た。コンシェルジュに質問をするためだ。
「両親が、20年以上前にこのホテルに泊まっていたのですが、そのときの、宿泊名簿みたいなものは残っていませんか?」と聞いた。
コンシェルジュは若い女性だった。黒い髪を頭の後ろでぴっちりとお団子にした生真面目そうな様子だ。彼女は、わずかに首を傾げる。「少々お待ちください」と言われ、奥に下がっていった。
そして、年配の男性が彼女と一緒にでてくる。マネージャーと名札には書かれていた。
彼は丁寧な物腰で再度広瀬の要望を聞いてきた。
「20年以上前に、両親と自分がこのホテルに泊まってみたいなんです。もし、宿泊名簿が残っていたら、見せてもらえませんか。できれば記念にコピーをいただきたいです」
「日付はお分かりになりますか?」
広瀬は、記念写真の右隅に記載されていたタイムスタンプの日付を伝えた。
「20年以上前となりますと、宿泊名簿そのものはもう残っておりません。スキャンしたデータがあると思いますので、それを探してみます」彼はそういうと広瀬に頼んできた。「20年以上前の名簿とはいえ個人のお客様の情報です。できれば、お客様のお名前がわかる証明書をみせていただきたいのですが」
広瀬は承諾し、免許証を出してみせた。「両親と自分の3人で泊まったはずです。多分、俺の名前も書かれているはずです。両親の名前は、広瀬信隆と咲恵です」
「お探ししてみましょう。今日すぐにお探しができませんので、お客様のご連絡先にお送りいたします」
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