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第53話

マネージャーは連絡先を書くよう紙とペンを差し出した。広瀬は慌ててそこに記載をした。 書き終わる前に、後ろから声がした。 「ついでに教えてほしいんですが」 振り返るとにこやかな顔をした東城が立っていて、ホテルのコンシェルジュに質問をする。 「この辺りで、地球儀に関係するものってありますか?」 「地球儀、でございますか」と最初に応対してくれた若いコンシェルジュが返す。 「はい。地球儀のオブジェがあるとか、地球儀作っている工房があるとか、なんでもいいんです。昔あったでもいいです。20年以上前でも」 年若いコンシェルジュは、ぱらぱらと自分の手元の地図をめくっている。目的があってみているのではなくて、困っている感じだ。 「地球儀じゃなくても、そうだな、地球とか世界地図とかそういうものとか。この辺の場所の位置とか。東経何度、北緯何度みたいな」 「地域の博物館ならございますが」と彼女は言う。「地球儀や世界地図の展示はないですが、地質についての展示はあります。富士山の成り立ちの展示も」 そうして地図を見せてくれた。ホテルに泊まる観光客むきのイラスト入りの地図だ。 「これは、20年前にもありましたか?」 「20年前ですか」と彼女はまたとまどっている。「おそらくあったかと」 彼女は隣に立っているマネージャーを横目で見た。「博物館は20年以上前からございます」とマネージャーが答えた。 東城は礼をいった。「ここには行ってみます。で、他にはありませんか?地球儀を飾っていたレストランとか」感じよく話をしてはいるがしつこくしている。 「20年前のでございますか?」 東城はうなずく。 「地球儀ですね」とマネージャーは言った。「どうして、地球儀をお探しですか?お差し支えなければ教えていただけますか」 「20年前、彼が両親と旅行した時のメモに『地球儀』という言葉が書いてあって、なにか、思い出の場所だったら、確認したいと思いまして」と東城は話した。 マネージャーはうなずき、しばらくして奥から古いファイルを持ってきた。 「これは、その頃のこの辺りの地図や観光案内です。ですが、地球儀に関するものはありません」 資料を見せてくれる。 「おっしゃるようにレストランや他の意味かもしれません。こちらの資料ではわからないですね」 東城はその資料をじっとみた。「これもコピーしていただけませんか」 もちろんです、とマネージャーは言い、すぐにコピーを持ってきてくれた。

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