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第55話

東城はというと、記録は広瀬におまかせで、風景写真や何が楽しいのか知らないが自撮りをしていた。 単なる観光旅行のようにもなっている。車で名所旧跡を巡っていると観光客目当ての甘味屋があったり、自家製ソーセージが食べられる店がある。 車の窓から見ていると東城は時々車を停めて買ってくれた。さらに、お土産になるものを物色したりもした。 東城は車でいつもの通り冗談を言ったり、真面目に記録をとっている広瀬を邪魔したりからかったりしていた。 土産物屋で広瀬が石田さんへのお土産を買うと、東城も親戚の女性たちに何か買っていた。 さらに、広瀬の伯父さん夫婦にも立派な箱入りの郷土の名産品を買っている。 おまけに自分からだと言って送れと広瀬に命令してきた。 しつこいしお金を払ったのは東城であることは真実なのでその願いは聞くことにした。広瀬に実害はないのだし、もらったら伯父さんたちは戸惑うだろうが、捨てたりはしないだろう。 土産物屋を出て二人で歩いてぶらぶらしていたら、4人の若い女性が写真撮ってくださいと東城に頼んできた。 もちろん、彼は快く応じた。 そして、いつもの習い性でどこから来たのか、とか、どんな集まりなのかとか、にこやかに軽く聞いていた。女性たちはうれしそうに口々に答えていた。 「もしよければ、お二人の写真もとりましょうか?」と女性の一人に言われる。 東城は、礼を言って、広瀬と二人で並んで写真を撮ってもらった。 後で見たら、東城は自然な笑顔なのに自分は無表情だった。だから写真って好きじゃないんだよな、と広瀬は思った。 車に戻ったら東城が面白そうな顔をしていた。 「あの女の子、お前のことずっとみてたな」と言う。 「誰のことですか?」 「あの、水色のバッグの子だよ。せっかく話しかけてくれてたのに」 「気が付きませんでした」と広瀬は答えた。「それに、話しかけられても」なにか言われてはいたのだが、自分にだとは思わなかった。 「そりゃあそうだ。でも、お前が女の子にもてるのって、それほど悪くない」と東城は答えた。「お前、見た目がいいからなあ」と言っている。「ああ、中身もいいけどな、もちろん」とおざなりに付け加えたのはかえって余計だった。

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