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第57話

山梨から帰って二日後、家に帰ると東城が封書をもってきた。 「来たぞ」と彼は言って白い分厚い封筒を渡してくれた。 封を開けると書類が入っていた。古い宿泊名簿のコピーだった。 両親の名前、自分の名前。当時の住所が書かれている。整った手書きの文字は父親のものだろう。何のメッセージもない文字だが、広瀬はその文字に見入った。ホテルのロビーに笑顔の両親がいる光景が思い浮かべられる。 ホテルからの送り状も入っている。当時の宿泊者向けのホテルのパンフレットもあったので記念にコピーを同封します、と書いてあった。 折りたたまれていたパンフレットのコピーを広げると、手のひらにのる程度の小さなメモ用紙がはさまれていた。 そこには、女性の小さな文字があった。 広瀬と東城がホテルを出た後、その日の夜に男が訪ねてきたというのだ。その男は、二人がコンシェルジュにどんなことを問い合わせたのかを聞いてきた。ホテルはもちろん回答はしなかった。男もあっさりと引き下がった。だが、気になったのでお知らせします、と書いてあった。 「どういうことだ?」東城はそのメモを見て表情を固くしていた。「俺たちのことを調べてる奴がいるってことか」 「そうかもしれません」自分は山梨に行くことは誰にも伝えていなかった。東城も特に話していないようだ。近郊に一泊だったので職場に届けも出していない。 「どんな奴だったんだろうな。このメモの女性に聞いてみるよ」と東城は言った。おそらく、広瀬たちの相手をしてくれた若いコンシェルジュだろう。

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