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第61話
月曜日の午後、突然、東城は福岡に命じられて同僚の竜崎と一緒に本庁の上の階にある会議室にむかった。
そこは、ただでさえ厳重な入退室がさらに厳しく管理されているフロアの会議室だ。
部屋の中にはすでに10人ほどの捜査官がいた。
東城たちの後からも数名が入ってくる。見知った顔もあれば知らない顔もあった。室内はぼそぼそと低い声で話をしている者、簡単な挨拶をするものはいたが、おおむね静かであった。
これからの会議内容を知っていそうな人間はいなかったが、ベテランが多いせいかその場の空気は緊張はしているものの落ち着いていた。
事前に招集理由は明かされていなかった。福岡も知らないのかもしれない。
東城は黙って指示された席に座った。後ろの方の席だったから、自分たちはそれほど重要なポジションではないのだろう。隣に座った竜崎も無言だった。彼は静かに人の顔を見回している。
主に誘拐を担当する特殊班のメンバーがいることが気になった。誘拐事件なのか。
その事件に産業スパイを担当する部署の自分と竜崎が呼ばれるというのは、どんな経緯か。
指示された時間の3分前に、会議は始まった。部屋の前方には、3人の男が座っている。
1人は東城も顔を知っている管理官だ。今回の招集のトップだろう。出席者の確認が行われ、
この場のメンバーが複数の部署から集められたことがわかる。
てきぱきと手元に資料が配られる。資料に目を通しながら、説明の声を聞いた。
「警察庁の研究所の近藤理事が、先週末から行方不明になっている。今日で3日目だ。ご家族から研究所に今日の午前に連絡が入った」
書類には、近藤理事の顔写真と経歴が書かれている。警察庁入庁から研究所の理事になるまでの情報だ。
東城はその名前と役職を食い入るように何度も見た。神経をとがらせて説明の声も聞き漏らすまいとした。言葉のわずかな行間も理解しなければ。
「今のところ、家出、略取誘拐、拉致など様々な可能性が考えられる。近藤理事は、研究所の理事という立場のため、捜査は特別チームを組んで行われることになった。既に、メンバーの中には近藤理事の家で誘拐時の対応をとっている」
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