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第63話

同じ月曜日の午後、広瀬は実証事件をしているサブシステムのタブレットの定期チェックで警察庁の研究所を訪れていた。ここに来るのは3か月ぶりだ。 『白猫』がタブレットをチェックしていた。特に問題はない、と彼は言うだろうと広瀬は思っていた。 タブレットを利用した実証実験は延長し、新しい端末になっているが、使い方は今までと同じだ。 違う点があるとしたら、最近、大井戸署の何人かが広瀬に過去の事件についてタブレットの記録を聞いてくるようになったことだ。自分たちでも書類をひっくり返せばわかるのだが、広瀬のタブレットの方が手っ取り早いからな、と言われた。 もう一つは、今の家で広瀬はタブレットを利用していることだ。 東城のマンションではできるだけ使わないようにしていた。だが、仕事ができないのは不便で、引っ越した後は使っている。 引っ越したことは『白猫』には伝えている。届けも出していることだし、隠し事はなにもないのだ。 『白猫』は同僚の変化についてよい傾向だと思ったようだ。こまごまと質問してメモを取っていた。 さらに、「新しい地図だね」と『白猫』が画面を示した。「新しい事件なのかな?」 見ると、岩下教授の家の周りの地図だ。この前、東城と一緒に歩いた時に、タブレットを記録用に使ったのだ。 「はい。結局事件化はしませんでした」と広瀬は答えた。 「細かく記録していたのに、残念だね」 「よくあることなので」 「まあ、広瀬君たちの仕事ってそういうものだよね」と『白猫』は言った。「関係ないことをないと証明していくのも大事だからね」 しばらくしてチェックは終わった。『白猫』はタブレットを広瀬に手渡ししながら何気なく広瀬に質問をしてきた。 「ところで、広瀬くん、研究所の近藤理事は知ってる?」 広瀬はうなずいた。 「そうだよね。君がこの実験に参加するように推薦した人だから。どこで知り合ったのかな?」 「亡くなった父の友人です。近藤理事が、なにか?」返事をしながら不安がよぎる。『白猫』がこんな質問をしてくるのには理由があるはずだ。 『白猫』は広瀬の目をじっと見てくる。そういえば、この人はやけに色が白い、と今更気づいた。 眼は薄い茶色で、全体的に色素が薄い。白衣を着ているから『白猫』と内心あだ名をつけていたが、全体的に色白だったのだ。

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