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第64話
「それがね、まだ、正式に周知はされていないから内密の話なんだけど、近藤理事が行方不明らしい」
広瀬は耳を疑った。
「驚かないのかい?君は、いつもポーカーフェイスだから、よくわからないけど」
「驚きました」と広瀬は正直に答えた。
「ああ、もちろん、そうだよね」
「行方不明というのはどういうことですか?」
「土曜日に家を出てから、連絡がとれないらしい。家族は、土日にどこかに行っているのだろうと思っていたんだけど、月曜になっても帰らないから、職場のこの研究所に連絡してきたそうだ。何があっても仕事はする人だから、ということでね。でも、出勤していないし、立ち寄りそうな先でも今のところ見つかっていないらしい。僕のところにも確認があってね。近藤理事はこの実験に関心を持っていて、よく進捗を聞きに来られていたから」
彼は、まだ、広瀬の表情を確認するようにじっとみている。
「そのうち、広瀬君のところにも、誰かが聞きに来るんじゃないかな」
「自分のところに、ですか?」
「親しかったんだろう?今は、手あたり次第に探っているみたいだよ。僕のところにまでくるから、君のところにもきそうだと思っただけだよ」そういって、微笑した。「それに、もしかしたら確認できてない予定が近藤理事に入っているだけかもしれない。忙しい人だし、公にできないアポイントも多そうだからね。みんなの大騒ぎが杞憂に終わるといいんだけど」
『白猫』から受けとったタブレットを広瀬はカバンに入れた。挨拶すると彼はドアのところまで見送ってくれた。
「次は、三か月後、だね。忘れないで」と『白猫』は言った。
研究所を出るとすぐに個人のスマホを取り出した。東城からと橋詰から電話が入っている。東城からは、メールも入っていた。確認したいことがある、今日は帰れないが、必ずどこかで連絡をとりたい、という内容だった。
橋詰からのは着信だけだった。留守電を残すこともしていない。
広瀬は二人にそれぞれ電話をしてみたが、どちらも忙しいのかでなかった。
広瀬は、スマホの画面をじっとみた。そして、忍沼の番号をだし、電話をかけた。
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