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第67話
「元村さんは?」と広瀬は聞く。「元村さんに、近藤さんの話をしたのではないですか?」
「融に?もちろんしたよ」忍沼はあっさりと答える。そして、手を伸ばしてティッシュをとり咳をして鼻をおさえた。「ごめんね。もう治りかけなんだけど」と言う。そして、話を続けた。「融も何もしていないよ」
広瀬は疑ったままだ。
東城は元村融のことを暴力の訓練を受けたプロだと言っていた。
優男の忍沼に近藤の誘拐はできないだろうが、元村ならできるだろうか。だが、どんなに強くても小柄な元村に比較的体格のよい近藤の略取誘拐は一人では無理そうだ。忍沼たちには他に仲間がいる可能性はある。同年配の実験の被験者は他にもいるはずだ。
「融は、警戒心が強いだけだ。自分から手をだしたりはしない」
「そうですか?」
「もちろん、必要があればするよ。仲間を傷つけられそうになったり、悪い奴だってわかれば、容赦はしない。でも、近藤の情報を集めている今の段階で、手出ししたら、全部台無しだ」そう言って忍沼は言う。また、軽く咳をした。「融に直接聞くといいよ。もう少ししたら来るから」
「来るんですか?」
「うん。融は、しょっちゅう来てるよ。今日は、あきちゃんが来るからって、誘ったんだ」と忍沼はうなずき、牛乳を飲んだ。広瀬もお茶を飲む。
「近藤さんが、今どこにいるかわかりますか?」
「だからね、僕は知らないよ」
「そういう意味ではなくて、どこにいるのか、調べられるんですか?」広瀬は、忍沼のデスクトップパソコンに目を向ける。
忍沼は、ああ、と言った。「これで、探すってこと?」と彼はパソコンを指さす。「あきちゃん、僕のこと調べたの?」
「ええ、まあ」
「あきちゃんじゃなくて、東城さんが調べたんだね」と忍沼は優しそうな苦笑を浮かべる。
「不正アクセスで前科があると聞きました」と広瀬はこの件に関しても率直に言った。
「うん。ずいぶん前にね、働いてた会社でもめ事があってね。それで、僕が近藤を探せると思ったの?」
「そうです。できますか?」
「それは、すごく難しいよ。いつも通り生活している人なら、その人の自宅や職場付近の監視カメラ経由でたどっていって見つかるかもしれないけど、誰かが誘拐してるとなるとね。それに、僕が見つけられるくらいなら、すぐに、警察が見つけられるんじゃないかな」
「そうかもしれません」
「でも、あきちゃんの頼みなら、やってみるけど」と忍沼は言った。
「近藤さんのことを調べていたのでしたら、行方不明の理由もわかるのでしょうか?誰が、とかどうして、とか。推定することは?」
忍沼はそれにもうなずく。「それもやってみるよ。ちょっと調べたところだと、近藤は研究所の機密情報に関係しているみたいだね。ああ、それと、最近、滝教授に会ってるみたいだった」
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