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第68話
滝教授というのは、広瀬たちが被験者になった実験を行っていた研究室のもともとの長だ。
不審死をとげた岩下教授の恩師で、今は千葉に設立した自分の研究所にいる。年齢もかなり上のはずだ。
「いつ頃のことですか?」と広瀬は聞く。
「ここ数週間前くらい」そう言うと忍沼また咳をする。今度は長い。咳き込みながら苦しそうに彼は言った。「滝教授の研究室付近の監視カメラの情報だよ。不鮮明だからわからなかったんだけど、あきちゃんから近藤のことを聞いて、照合してみたんだ。多分、あれは近藤だと思う」
彼は咳をしながら立ち上がり、小さなキッチンの引き出しから、病院の処方薬を取り出して飲んだ。そして、何度か深呼吸をしようとする。
「大丈夫ですか?」と広瀬は声をかける。
「うん。でも、ちょっと、苦しいから、横になっててもいいかな」と忍沼は言った。
広瀬はうなずいた。
忍沼は、ベッドに横たわり掛け布団を自分にかけた。
「ごめんね。今日は具合がよくなってきたと思ってたんだけど、そうでもなくなってきた」と言う。「せっかく、あきちゃんが来てくれたのにね」彼は軽く目を閉じた。そして小さい声で言う。「あきちゃん、僕たちの仲間になったんだよね?近藤のことを教えてくれたんだから。そう思っていいんだよね?」
返事をせずに帰ろうかと思ったが、この後元村が来るのだ。彼にも話を聞きたかったので広瀬はとどまった。
忍沼はまた、つぶやくように言う。
「あきちゃんが、こうやって連絡してきてくれたり、話をしてくれるなんて、夢みたいだよ。近藤のことは心配しないで。僕たちは何も悪いことはしてないから。それに、犯人も捜してあげるよ。君のためになることはなんでもしてあげる」そして、また、咳をした。「小さい頃のあきちゃんは、天使みたいだった。あの時、君だけが、僕の救いだった」と彼は言った。
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