70 / 193

第70話

元村は、驚いた声をあげた。「なんで、また?」と言う。「行方不明ってなんだ?どういうことだ?」 広瀬は元村を見た。この反応は本当に知らなかったようだ。 しばらくして、元村が理解をしたようだった。「お前、それで拓実に会いに来たのか?拓実が近藤を拉致したとでも思ってるのか?」 「はい」 「んなこと、拓実がするわけないだろう」と元村は言う。「ていうか、本当にそんなことできると思うのか、こいつに」元村は青白い顔をしている忍沼を示す。 「元村さんは、どうですか?」 「俺?俺がなんだよ」 「元村さんなら、できそうです。何らかの訓練を受けているのではないですか?」 元村は黙った。広瀬をにらんでくる。 「忍沼さんに前科があることはわかっています。元村さんは、どうなのですか?」 「前科があるかどうかってことか?」 「近藤さんを拉致したり、略取誘拐したりできるのではないかということです」 元村は率直に答えてきた。「近藤を捕らえることくらい俺には簡単だ。お前が調べればすぐにわかることだろう。俺は、傷害罪で何回か捕まってる。1回は服役した。近藤を拉致したりは、していないけど、やる気になればできた。先を越されただけだ」 「傷害罪ですか」 「ああ。ビジネスでね」 「ビジネス?」 「金を払って誰かを脅したり傷つけたりしてほしい人間はいくらでもいる。請け負う人間は少ないから金額は高い。資本主義ってやつだな。仕事はいくらでもあって金にもなるから俺は、ビジネスにしているんだ。今度逮捕されたら長い実刑になる。ハイリスクハイリターンのビジネスだ」 冗談を言っているようでもない。どこかの投資家のような口ぶりだった。 広瀬は、以前、忍沼が言っていた実験の副作用のことを思い出した。規範意識の低下、万能感。元村のこの当たり前な様子はそのせいなのだろうか。 「暴力団の構成員なのですか?」 「いや、違う。特定の組織には属してない。全くの個人事業主だ。ヤクザから仕事を受けることはある。連中は暴対法のせいで動きにくくなってるからな。俺にとってはいい法律だ」 「どこで訓練を?」

ともだちにシェアしよう!