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第73話

家の裏門の前でタクシーを降りると、門の脇にある郵便受けを確かめた。 ダイレクトメールが何通か入っている。 さらに、大きめの封筒が入っていた。ひっぱって取り出すと、クッション材のついた白い封筒だった。 玄関から家に入り明かりをつけてよくみてみた。 あて名にはプリンターで打ち出したラベルが貼ってある。 広瀬宛だ。前住んでいたアパートの住所宛になっている。転送されてこの家にきたのだ。裏返しても送り主の記載はない。 広瀬は、キッチンで引き出しからハサミを取り出し、封を切った。 指を入れて中身を取り出す。 折りたたまれた1枚の紙。 小さなビニール袋に入った10粒ほどのカプセル錠剤。 スマホに入れるような小指の先ほどの大きさのフラッシュメモリー。 そして、500円硬貨と同じくらいの大きさの透明な丸いプラスチック。 厚みは硬貨の3倍くらいある。 中心には、小さな黒い塊が入っていた。黒い、歯に装着するデバイスだった。 島根県警がもってきた研究者の口の中にあったデバイスとほぼ同じ形のものだ。 紙を広げると、装着方法が簡単に書かれていた。 そして、カプセル錠剤を服用すれば、頭の中に記憶をよみがえらせる回路が出来上がる、と。完全に回路が出来上がれば、薬はなくてもデバイスだけで、自由に記憶を操ることができるらしい。 紙に書かれていたのは無機質なただのマニュアルだった。 それ以上のメッセージは何もなかった。小さなフラッシュメモリーの中身をみたら、何かわかるかもしれない。だが、中のデータは慎重に覗く必要があるだろう。どんなウイルスが仕込まれているともしれない。 誰が何のためにこのデバイスを自分に送ってきたのか、広瀬には見当もつかなかった。封筒にはなんの手がかりもない。 思わず広瀬はスマホを取り上げて、東城に電話をかけていた。だが、それはまたすぐに留守番電話に切り替わってしまった。広瀬はあきらめて、電話を切った。 広瀬は、全てを封筒に戻し、自分の部屋のデスクの引き出しにいれた。そして、鍵をかけた。鍵は、自宅の鍵と一緒のキーホルダーにつけ、ポケットに入れておいた。

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