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第74話

ポケットに入れた電話が振動しては止み、また、時間がたって振動しては止んでいた。 広瀬からの電話だというのはわかっていたが、東城はそれをとることができなかった。 捜査本部に缶詰め状態で、膨大な情報の処理と分析、頻繁に行われる会議に忙殺されていたのだ。 研究所の近藤理事が行方不明になり、午後からずっとこんな感じだ。ほとんど手がかりがない現状では、いろいろな可能性が想定されている。誘拐にそなえて自宅に捜査員が入っているが、犯人からの連絡はない。身元不明の病院搬送や遺体の確認も進んでいる。 深夜になって、いったん東城は竜崎と共に部屋を出て、そのまま福岡のいるチームの部屋に向かった。 部屋には福岡以外に数人が残っていた。 東城と竜崎が手掛けていた仕事を引き継いだためもあるが、福岡があえて、残しているのだ。 福岡はこの手の事件を好む。難しいという点でも好みなのだろうが、警察内部の裏事情を入手したがるのだ。彼の保身と予算獲得の源泉になっている。 福岡は部屋の隅にある打ち合わせスペースにチームのメンバーを集めた。 「どうだ?」と彼は竜崎に聞いた。 「近藤理事は、土曜日の朝、家族にでかけると伝え、徒歩で最寄り駅に行き、そこから新宿に向かっています。駅の南口をでてしばらくは防犯カメラのデータを入手できたのですが、途中からは人ごみと防犯カメラデータがない場所などがあり、行方が途切れています。新宿一帯の駅の画像は今解析中ですが、すぐに、近藤理事が見つかりそうにはありません」 「車の移動は?」 「それも解析中です。範囲が絞れないので、車中の人物画像データから把握するにはかなりの時間がかかると思われます」 福岡は東城を見る。 「近藤理事の個人のPCや携帯端末のデータを読み込んでいるところです。メール文に産業スパイとの接触らしきものがないか当たっています。携帯電話の着信履歴も整理しています。気になるのは、近藤理事は、東欧の大使館に出向していたことがあり、その頃の知り合いとは今でも頻繁にやりとりしている点です。メールのほとんどは英語ですが、一部は、ハンガリー語で、今、翻訳にまわしています。それ以外にも、海外とのメールは多いです。ざっとみたところでは、大半は近況を知らせ合う程度で、仕事の内容は含まれません」

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