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第75話

「研究所のお宝をもって出国したんじゃないのか?」 「出国データには近藤理事のパスポートの記録は残っていません」とそれは竜崎が答える。 「関係者に聞きましたが、近藤理事は、人一倍組織への忠誠心の高い人だそうです。研究所の機密情報にはもちろん触れる権限はありましたが、入手したそれを誰かに売るようなことは、ありえないそうです」 福岡は苦笑する。「俺も近藤さんのことは知っている。その評価はあたっているだろう。だが、実際問題として行方不明になっているんだから、先入観を持たない方がいいだろう。捜査チームには研究所の奴らも来ていたのか?」 「はい」 「今の近藤に関する弁は、研究所の連中の言葉だな。機密情報を理事が持ち逃げしたなんて、連中からしたら悪夢以外なにものでもない。お前や東城があっちで煙たがられるのは目に見えるようだ」 「煙たがられてはおりませんが」と竜崎は返した。 「まあ、お前らは人当たりがいいからな。向こうの管理官にチームプレーできる奴をよこせって言われたんだ。お前らを選んだ俺の判断は正しかっただろう。他には何かないか?」 「近藤理事は、土日もその前も特に変わった様子もなかったようです。職場でも家庭でも、いつも通りだったということです。捜査チームでは、昔の事件関係者にもあたっています。最近出所したものを中心にしていますが、かなり過去まで遡っています。過去の事件の怨恨で拉致されたという可能性も調べています」 「なるほどな。引き続き状況は報告しろ」と福岡はうなずいた。 そして、打ち合わせにいたチームの別な人間に指示を出す。「近藤が、海外とどんなやりとりをしてたのか、こっちはこっちで追う。特に、東欧ルートで動きがないか探れ」 それからしばらくして会議は解散になった。 東城は仕事に戻ろうとする福岡を呼び止めた。「福岡さん、少し時間を」と言う。 福岡はうなずいた。竜崎が怪訝な顔をしている。東城は竜崎も誘った。 「どこかで、飯でも食うか」と福岡は言った。

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