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第76話
行った先は、福岡チームがよく使う多国籍料理の店だ。
個室があり、オーナーは福岡の知り合いだ。
ここのオーナーは誰に吹き込まれたのか偏執病的なところがあり、ほぼ毎日盗聴器がないかを確認している。
防犯カメラはもとより携帯の電波もWi-Fiもここには入らない。福岡が気に入っているのは、その堅牢さと、オーナーの娘のウェイトレスが長身の巨乳美人だからだ。
「確かに、店にわざわざ盗聴器なんかいらないよな。福岡さん、あの女になんでも話しちゃうんだから」、と福岡チームのメンバーが陰口をたたいているほどに気に入っている。
この深夜の時間帯には美人ウェイトレスはいなかった。
料理が適当に運ばれてくると、東城は、広瀬に聞いた岩下教授関係の話をかいつまんでした。
相次ぐ研究者の自殺、島根県警からの連絡、岩下教授の死、近藤理事からの圧力で捜査が中止になったこと。
用心して、広瀬の歯のデバイスのことと忍沼の話はしなかった。
福岡は、だまって話を聞き終わると、聞き取れるかどうかわからないくらいのうなり声をあげた。
「面倒なことになってるな。近藤理事はなんだってそんなつまらん案件の邪魔をしてきたんだ。それに、大井戸署の課長も課長だ。研究所の理事の圧力なんて怖かないだろうに。イエスマン気質がしみついているんだな」と福岡は軽く悪口を言っていた。
「近藤理事の行方不明と関係あるのでしょうか?」と竜崎が福岡に質問している。
「わからん」とあっさり福岡が答える。「行方不明になる理由が圧力だとすると、邪魔された大井戸署か島根県警がやったってことか?そんなわけないだろうからな。管理官はこの話知ってるのか?」
東城は首を横に振った。「話はしていません。俺の案件でもないですし、近藤理事が圧力をかけたという確証もないですから」
「そうか」福岡はうなずく。「まあ、お前が大井戸署の広瀬と親しくなかったら知らない話でもあるしな。その件はそのうちどこからか管理官の耳に入るだろう。だが、話としては興味深い。近藤理事とその研究者たちのことは俺も別ルートで調べてみよう」と福岡は言った。
「福岡さんは、近藤理事とはどこで知り合われたんですか?」と竜崎が聞く。
「ああ、もう何十年も前だ。事件の捜査で」と言って福岡は口を閉じた。
短時間彼は無言だった。何かを考えているのだ。
そして再び口を開いた。「ある事件で、捜査本部がはられたときに一緒になったんだ。竜崎が言うように、近藤さんは組織に忠実だった。警察組織全体、いやこの国の犯罪捜査や司法の在り方そのもののことを考えていた。俺には、まじめすぎるように思えたがね」
食事を終えて東城と竜崎は捜査本部に戻った。
途中で、広瀬に電話をしようかと思ったが、あまりにも遅い時間で、もし起こしたらかわいそうだ、と思い、かけなかった。
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