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第77話

翌日の夜遅くに、広瀬が家に帰ると、玄関のところに東城が立っていた。彼も今まさに帰ってきたところで鍵を取り出してドアを開けようとしている。 広瀬は、思わず駆け寄って彼の方に手を伸ばした。 頬に触れて、そのまま後頭部に手を滑らせ、自分の方に引き寄せた。 唇を合わせ、噛みつくように吸った。舌を差し入れようとしたら、彼はすぐに応えてきた。 逆に東城の方が舌を入れてくる。水音がして、彼が広瀬の口をかきまぜる。彼の厚い舌が喉の奥まで入り込んでくる。苦しい。苦しいけど、欲しい。彼の感触で口をいっぱいにしたい。 目を開けて彼を見ると、東城の方は眼を閉じていた。唇を吸い、舌を出し入れしながら彼が自分を求めていた。広瀬が欲しいものを、すぐにくれるのだ。 東城は、広瀬の背に手を回して抱きしめながら、片手で玄関のドアをあけた。 二人が入ると中はセンサーで明かりがつく。東城はまだ目を閉じていた。 身体で強く広瀬を押して、中に入る。靴を脱ぐのもそこそこに、毛足の長いラグの上に広瀬を押し倒した。 そうしながらも、広瀬の口をむさぼり続けていた。 広瀬も彼の口を味わう。 「ん、ん、」 どちらともなく声が上がっていた。飲み込めなくなった唾液が広瀬の唇の端から頬につたった。もったいない。全部欲しいのに。 東城の身体に飢えていた。ほんの少し離れていただけなのに、長い時間不在のようだった。欲しくて、飢えを満たしたくて、広瀬は東城にキスをし返した。彼の身体、汗、髪の匂いが鼻腔を刺激し、それだけで震える。 東城は手を広瀬のワイシャツにはわせ、下のボタンからはずした。ネクタイをまどろっこしそうにゆるめて、引き抜く。ややかさついた大きな手が腹から胸をまさぐる。 それだけで広瀬は全身をびくつかせた。小さな痙攣が波のように、東城が触れてきた場所から指先、つま先へと流れる。 東城が唇を離した。 「あ」と広瀬は声を出した。 広瀬も、彼のスーツのジャケットに手をやった。ひっぱると彼が自分で袖を抜き、三和土のほうに放り投げていた。 そこで、やっと、ゆっくりと動いていた玄関の扉が、カチリと小さな音を立てて閉まった。

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