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第79話
風呂にお湯がはるのを待つ間、広瀬はバスローブを着せかけられて、ぼうっとしていた。
東城は、行為の後、広瀬を抱き起した。それから、浴室に行って風呂の準備をし、玄関のラグや衣類を洗濯機にいれ、片付けている。
セックスの余韻で身体中がしびれ、動けなくなってしまった広瀬と違い、テキパキしている。
彼は、「風呂入れるぞ」と声をかけてきた。
バスローブを脱衣場に落とし、浴室に入る。
広い湯船につかってしばらくすると、彼も入ってきた。
ざっとシャワーで身体を流し、湯船に入ってくる。じっと目で彼を追いかけていると、「こっちに」と手を差し伸べられた。
身体を寄せると、背中に手を回され、向かい合って抱きしめられた。太ももの上に座らされ、キスを何度かされる。腕も唇も温かい。唇が左耳の後ろをなぞった。
「電話出られなくてごめんな」と彼が言った。
広瀬は、東城の肩に頬を乗せ、首を横に振った。
「仮眠したら、また、すぐ支度してでるから」と東城は耳元で言う。
広瀬は、うなずいた。本当に、荷物をとりに帰ってきただけなのだろう。忙しいはずだ。
「研究所の近藤理事が行方不明なこと、聞いたのか?」
広瀬は顔を上げ、東城を見た。「はい」
「俺、捜査本部に入った。研究所の理事だから、機密情報が漏洩しているかどうか確認している」
「誘拐ですか?」
「まだ、何もわからない。機密情報をもって高跳びした可能性もある」
「近藤さんに限って、まさか」と広瀬は言った。「そんな人ではないです」真面目で誠実な人だ。固すぎるくらいに。
「らしいな。福岡さんも言ってた」と東城は答えた。
「俺、忍沼さんに、岩下教授の件で圧力をかけたのは近藤さんだと伝えたんです」と広瀬は言った。
東城は、ああ、とうなずく。渋い顔だが特に批判はしなかった。
「忍沼さんは、元村さんにその話をしています。もし、彼らが近藤さんに何かしていたら」
「忍沼に会ったのか?」
「昨日、確認したくて会いました。元村さんとも」
「連中は、なんて言ってたんだ?」
「知らないと言っていました。近藤さんが行方不明なことも知らなかったと。でも、嘘かもしれません」広瀬は忍沼の家での会話を東城に話した。
「なるほどな」と東城は言った。
「もし、忍沼さんや元村さんが近藤さんに何かしていたら」と広瀬は言った。
「知らないと言ってたんだろう?」
「演技かもしれません。俺には嘘には思えなかったけれど、でも、わかりません」
「近藤理事は、忍沼や元村が探していた昔の実験関係者で、それで殺したってことか」
「はい。近藤さんが岩下教授の件で圧力をかけたのも、実験のことが明らかになるのを避けるためだったら」
「可能性はゼロじゃないな。だけど、お前が忍沼に圧力の話をしてから、近藤理事が行方不明になるまでの期間が短すぎる。忍沼は長い時間をかけて実験のことを追っているはずだ。お前から話を聞いたくらいで、裏付けも何も取らずにいきなり殺しはしないだろう。それに、仮に殺しをしてたら、刑事のお前には会わないだろう。あまりにも無防備すぎる」
そして、東城は言った。
「なんにしても、もっと情報が欲しい。まだ、何もわかっていないんだ。近藤理事が生きてるのか死んでるのかも、なにも、だ。行方不明の理由も全く不明だ。家庭の事情や突発的な家出なだけかもしれないのに、それさえもわからない」
東城はもう一度広瀬に長いキスをした。広瀬は眼を閉じた。身体を密着させて、深く、彼を味わった。
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