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第81話
福岡は首を横に振る。
「そこまではつきとめられなかった。その前に、殺されてしまったからだ。それで、裏金の捜査チームの一部が、殺人の捜査本部にまわったんだ。裏金がらみの捜査をしていたことは極秘だが、殺しの動機につながっているかもしれなかった。捜査本部には、近藤理事もいた。その時はまだ警察庁の官僚で、広瀬信隆の友人だと公言していた。なんとしてでも犯人をあげたかったが、殺人犯も裏金の件もどちらも明らかにはできなかった」
「隠ぺいされたのですか?」と竜崎は聞いた。「まさか、犯人は警察庁の内部にいて、裏金の件が公になることを怖れての、殺人だったのですか?」
福岡は肯定しなかった。「どうだろうな。みんな必死に捜査していた。そこには圧力も嘘もなかったと今でも思う。何かを隠ぺいしようなんてできないくらいの痛ましい事件だった。発見された時の写真を見たが、妊娠中の若い奥さんも一緒に殺されていた。現場は血の海だったよ。発見された時、子どもだけが生き残っていて、現場で、血まみれでうずくまっていたらしい。俺はそのことを話に聞いただけだったから、広瀬信隆に子どもがいたという認識が薄かった。あの惨状の中にいたという子どもが、今の大井戸署の広瀬だったんだな」
「え?」東城は思わず声を出てしまった。「広瀬は、現場に、いたんですか?」
「ああ」と福岡はうなずいた。「現場に最初に行った人間から聞いた話だから、確かだ。子どもはすぐに保護されて、入院したときいた。相当なショックだっただろうな」
「広瀬から犯人について証言はあったんですか?」と竜崎が質問している。
「さあな。捜査に価値のある証言はなかったとしか覚えていないな」と福岡は言った。
「近藤理事が、裏金の件と関係ありそうな岩下教授の件で圧力をかけたのは、実は、過去に捜査していた裏金に関与していたためでしょうか。そうだとすると、今度の行方不明は、広瀬信隆の死にも関係がある」と竜崎が福岡の話を理解しようとしていた。
「想像の範囲をでないがありえない話じゃない」と福岡は答えていた。
その会話を聞きながら東城の思考は別なところに飛んだ。
以前、広瀬は、事件の時、学校に行っていたと言っていた。帰ってみたら、家には入ることができず、両親はいなくなっていた、と。そして、気が付いたら、大分の伯父夫婦のところにいたような感じだったと。
両親が殺された現場にいたことを覚えていないのか。ショックで記憶がなくなったのか。ありえないことではないが、では、学校に行っていたという記憶は、なんだったのだろうか。間違った覚えこみをしたということなのか。
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