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第83話

昼食は、手っ取り早く済ませ、早くに仕事に戻ろうと思っていたら、竜崎に少し本庁から離れた店に誘われた。個室になっているステーキハウスで、何度か来たことがある。 かなり空腹だった東城には異存のない選択肢だったが、普段、どちらかというと小食の竜崎がここを指定してくるのは意外だった。だが、仕事の話はしやすい。 鉄板の皿の上でジュウジュウといい音を立てている分厚いヒレステーキにナイフを入れる。レアでと頼んだ肉の中はまだ赤い。味わいながら東城は言った。 「福岡さんの影響受けすぎかもしれないが、近藤理事はかなりグレーなんじゃないか。証明できるかどうかは別にして」 「そうだな。問題は、このグレーな点を明らかにすることと、近藤理事の行方を探すことがリンクしているのかどうかだ」と竜崎は言った。「もし、無関係だったら、僕たちは、知りたくもない事実を知ってしまうことになる」 それで先ほどのため息だったのだろうか、と東城は思った。「でも、近藤理事の機密漏洩を調べろって言ってるのは上だろう」 「裏金作りを探るのと機密情報漏洩を探るのとは別だ」と竜崎は言う。 「だけど、機密情報の件を追っていたからハンガリーに行きついたんだ。不可抗力だろう」 竜崎はうなずくが、「僕は、お前を変なんことに巻き込みたくないんだ」と言った。 「は?」意味が分からず思わず聞き返してしまった。「なんだ、それ?」 竜崎は自分の前のサーロインの小ぶりなステーキをナイフでつついている。この店に誘ったくせに、食べたくなさそうだ。 「福岡さんのチームに戻らないかと誘ったのは僕だ。いや、そもそも、最初の時だって、僕が東城を誘ったんだ。あの時も突然チームが解体して、東城に迷惑をかけた。今度も、大井戸署で順調にやっていたのに、僕が誘ったから福岡チームに戻って、こんな事件の担当だ。また、お前を政治的なことに巻き込みたくはない」と竜崎は言う。 「俺は巻き込まれたつもりも、お前になにか責任があるともこれっぽっちも思ってないぞ」とあきれて東城は答えた。そんなことを思っていたとは驚きだ。「前にチームがなくなったときに、バカをやったのは俺自身だ。それに、バカではあったけど間違っちゃいなかったと今でも思ってる。今回だって、俺が自分で福岡さんのところで働くって決めたんだ。今回の事件だって、全くお前の責任じゃない」 竜崎は、そういう東城を見て、なぜかまたため息をついていた。

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