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第84話
「そんなに気にするな」と東城は言った。「粛々と調べて、事実を並べるだけだろう。いつも、そうしてるじゃないか」
「そうだな。それだけのことだ」
しばらくして、竜崎は、急に違うことを言った。「広瀬に、聞くのか?」
唐突に話が変わったので東城は戸惑う。「何を?」と聞き返した。
「今日の、福岡さんの話だ」と竜崎が答えた。「広瀬が両親の殺害現場にいたこと、東城は知らなかったんだろう?聞き返していたから」
東城はうなずいた。「知らなかった。広瀬の両親の事件について、それほど詳しい話を聞いたことはない。聞き返したのは、あんまり悲惨で驚いたからだ。竜崎だってあの話、驚いただろう?」
「それで、広瀬に、聞くのか?」
「聞くって、何を?」
「その場にいたのかどうかや、犯人を見たのかどうか」
「当時、有効な話はなかったんだろう。聞きにくい話だし、聞いても、傷口に塩を塗るだけのような気がする」
「広瀬は、自分の両親の事件のことをお前に話をしていなかったのか?」
東城はうなずいた。「詳しく事件当時のことは聞いていない。もっとも、事件にかかわらず、自分の話しはほとんどしない奴だから」
だいたいが無口なのだ。いつでも、黙って無表情でいるだけだ。
そこでふと竜崎に聞く。「今回の近藤理事がらみで、広瀬の両親の事件資料を手に入れることできると思うか?」
「どうだろうな」と竜崎は言った。
「近藤理事が過去に関わった事件についても、調べているはずだ。広瀬の両親の事件だって、例外じゃないだろう。捜査本部に資料はきていないんだろうか」
竜崎は、食べきれないステーキをじっと見ている。「確かにな」と彼は言った。「そっちの担当者に聞いてみよう。だけど、資料を見たら、ますます、まずい方向に行きそうだ」
「気にするなよ。あくまでも、誠実に近藤理事を探してるだけなんだから」と東城は言った。
「お前の胃がそれ以上痛くなるようなことにはならないよ」
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