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第87話

滝は、うなずいた。みるみるいたましげな表情になる。「私よりもだいぶ若かったのに、残念だよ」 「研究は、岩下先生も続けていたのですか?」 「そうだ。もう、ずいぶん長い間一緒にやってきた。彼のメインの研究はやや異なるんだがね。手伝ってくれていたよ。最近まで大学に勤めていたんで手が空いたときにだが、無理もしてもらっていた。私はこの通り大学を辞めて長くたっているからどうしても大学関係の様子がわからないこともあって、その点でも助かったよ。岩下君は、大学をやめた後も連絡をくれていた。ここにも何度も来てくれた。研究熱心で、新しい情報があるとすぐにもってきてくれた。本当に、残念だよ」 広瀬は言葉を探した。今までのところ滝は質問に対してなんでも回答してくれている。 このまま話をさせるのがいいのか、それとも、核心をついてしまうのがいいのか。 「岩下君のことを聞きに来たのかね?自殺らしいと葬儀では聞いたが、そうではないのかね?」と滝は聞きたがった。「刑事の君が来るというのは、事件だからかね?それとも、昔の実験のことを知りたいのかね?」 滝に聞きたいことはいくらでもある。 今もっとも聞きたいのは、近藤理事のことだ。 彼は、滝の研究所を何度か訪ねていたと忍沼が言っていた。行方不明の原因はこの研究所の実験にあるのではないのか。 だが、広瀬が質問する前に「君のお父さんは気の毒なことだった」と滝が言った。「突然、亡くなったと聞いて、とても驚いたよ」 「父とはどのように知り合われたのですか?」 滝はすらすらと答える。 「信隆氏の方から連絡してきてくれたんだ。私の実験に興味をもってくれてね。国から研究費を出すことができるかもしれないと誘ってくれたんだ。書類をいっぱい作って、研究費を獲得した。情熱的な人だった」

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