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第91話

研究所を出た後、家に帰ろうと車を走らせた。 両脇は藪や林、空き地で街灯もなにもない真っ暗な道路だ。広瀬の車のヘッドライトが照らす範囲しか見えない。広瀬が運転する車以外、他に走っている車はなかった。 研究所から、しばらく走った山の中で、急にハンドルがとられ、車体がガタガタと揺れた。右の後ろのタイヤがパンクしたようだった。何かを踏んだのだろうか。 慎重にスピードを緩めて停めた。こんなところでこんな時間にパンクしたとすると、ついていない。様子を確かめるために広瀬は、ドアを開けて外に出た。 そこは、山の中の細い道路だ。左側は斜面になっていて少しでも車のライトから離れたら、暗くて道が分からず足を踏み外し、転落しそうだ。 タイヤの前にかがみこみ、見てみる。へこんではいるが、空気を足せば多少は走れそうだ。慎重に走らせて街中まで行き、そこで修理方法を考えてもいいだろう。車に戻ろうと立ち上がった。 その時、急に大きな黒い塊がこちらに向かってきた。ライトもつけていない真っ黒な車だった。エンジン音はなく、タイヤが地面を踏む音でかろうじて気づくことができたのだ。 車は、ためらいなく広瀬のいる場所につっこんできた。 広瀬は、車を避けて後ろに飛び退った。そして、さらに迫ってくる車を避けるため、走った。 暗い夜道に入る。足元を見ている余裕はなかった。 「あ!」 斜面に足を滑らせてしまった。身体が一瞬宙に浮く。それから、ほぼあおむけの状態で、背中を地面につけて、頭から下に落ちていった。 手を伸ばし、もがいてなんとか斜面の途中で止まろうとするが、速度が速すぎてできない。そして、何かに強くぶつかって、やっと止まった。

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