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第92話
左肩と腕に強い痛みがある。頭を守ろうとして肩からぶつかったせいだ。
ゆっくりと動かそうとしてみるが、激痛が走り、動かせない。両足と右腕も痛んだが、こちらはまだ動かせた。さらに斜面を落ちないよう、地面を確認し、気をつけながら、上身体を起こした。
左肩に手をやってみる。痛いが血が出ている様子はない。骨が折れていなければいいが、この痛みだ。どうなっているかわからない。
血が出ていそうなのは、擦過傷になっている後頭部や首、顔だ。
自分の周りは森の中で、真っ暗だ。何も見えない。空も、木々に覆われてわからない。道路からはかなり落ちてしまった。
右手を伸ばし自分が激突したものに触れる。太い大きな木だった。岩だったらもっとダメージを受けていただろう。大木を支えにして、立ち上がった。歩くことはできそうだが、下手に足を踏み出したら、また、斜面を落ちていきそうだ。
それに、あのライトをつけていない車は、なんだったのだろうか。
落ちてきた方角をみてみる。暗い闇の中だ。車のライトも見えない。なにが、どうなってしまったんだろうか。
あっという間の出来事すぎて、混乱しっぱなしだ。
あの時、黒い車が自分めがけて走ってきた。
恐怖が全身を押した。今でも怖い。怖さで身体中がこわばっている。
そして、これから、どうするか。
ただ、斜面を登り、道路の自分の車に戻るのは危険すぎる。
そこで、上の方から、カサカサという小さな音がした。そして、懐中電灯だろう、灯りが動いている。あの、車の中の人間が降りてきている。
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