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第93話

広瀬は、できるだけ音を立てないように懐中電灯の光が来る方角から離れた。 這うように低い姿勢で手探りで、大木から遠ざかり、手が触れた灌木の茂みに身体を入れる。木に触れた左手が痛んで、思わずうめき声が上がりそうになったが、こらえた。 枯葉を踏みしめる音が近づいてきた。灯りが森の中で横滑りしていく。灯りの向こうにいるのは長身の痩せた男だ。顔はよく見えない。 広瀬を探しているのだろうか。上から足元までを満遍なく照らしている。彼がたどってきたところには、広瀬が落ちたことがわかる枯葉の跡がはっきりある。 目を凝らしてみると、男は懐中電灯を左手に持ち、右手には、別なものを持っていた。 思わず息をのんだ。拳銃だった。小型のセミオートマチックだ。銃口は下におろしている。男の足取りはゆっくりで、目配りは慎重だ。 懐中電灯の灯りが動き、自分のいる灌木の上を通り過ぎた。数回行き来している。見つかったのか。息をすることもできなくなった。 だが、男がこちらに向かってくることはなく、さらに下へと降りて行った。懐中電灯の灯りも見えなくなる。 広瀬は、息を吐いた。心臓も再び動き出した感覚だ。男は行ってしまった。あいつだけだろうか。他にも仲間がいるのだろうか。しかも、銃を持っていた。 ここにじっと動かずにいるしかできない。 どうしたらいいのだろうか。朝までここにいて、明るくなったら走って逃げるか。足はなんとか動く。だが、左手が痛くて、気分が悪くなってきている。激突した直後よりも、悪化している気がする。腫れてきているのだろう。朝になって、まだ、身体を動かすことはできるだろうか。 じっとして時間がたつのを待った。体内のカウントでは、30分以上は灌木にいた。辺りはシンと静まり返っている。人の気配は全くない。 広瀬を探していたのはあのセミオートマチックの男は、行ってしまったのだ。そう思いたい。 広瀬は、動くことにした。ここで体を縮めていたら、こわばって、いざというときにうごけなくなってしまう。気温も夜になって下がっている。

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