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第94話

音を立てないように灌木からじりじりと動き、立ち上がった。深夜の森の闇はどこまでも深い。 広瀬は、足を動かした。落ちないように、地面を確かめて。 数歩踏み出した時、こめかみに銃口があたった。 広瀬は動けなくなった。 「歩け」と言われた。 そして、銃がこめかみから頬をつたい、首をぐっと押す。 「行け」 広瀬は、男に押されるようにして歩いた。足元がわからず、滑りそうになる。 「見えないんだったな」と男は言った。そして、しばらくすると懐中電灯がつけられた。 まぶしくて目の前が白くなる。が、しばらくすると、斜面の様子が見えた。できるだけ顔を動かさないように、男を目で見た。 男は首から、暗視ゴーグルをかけている。 おそらく、途中でゴーグルに切り替え、懐中電灯を消して探していたのだろう。そして、広瀬を見つけ、動き出すのをじっと近くで待っていたのだ。 広瀬は、銃に押され、車を停めた道路に向かって斜面を登った。 森の中では、はえている木は大きさもまちまちで、枝も伸び放題だ。地面は枯葉、木の根、石があり、真っすぐ歩くのが難しい。怪我をしているのでバランスもとれない。だが、少しよろけるだけで、銃が背中に食い込む。 歩かされているということはすぐに殺す気はないのか。 このまま道路に出たら、何が待ち受けているのか。なぜ、自分を襲ってきたのか。後ろの男は、全く得体が知れない。そもそも銃や暗視ゴーグルを持っているというのは、尋常ではない。 なんとか、この状況から逃げなければ。

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