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第95話

足元を見ながら、必死に考える。なにか、方法を。わずかなチャンスでも。逃げなければ。 そして、あ、っと思った時には、つまずいていた。見えなかった木の根が足にかかったのだ。 後ろで男がおどろきの声を小さく上げたのがわかった。広瀬は、倒れながら、身体をねじり、足をふりあげると、男の手を蹴り上げた。 拳銃が、男の手から飛ぶ。身体を回転させて、銃を拾おうとした。だが、左の肩が痛み、思ったようには動けない。 手を伸ばそうとして、腹に激痛が走る。思い切り蹴られたのだ。広瀬は、苦痛で身体を丸めた。何度も鋭く蹴られ、踏みつけられる。息ができない。 男は、かがみこんで、余裕の姿勢で銃を拾い上げた。 「面白いことしやがって」と男は吐き捨てた。 頭に銃が突き付けられる。 広瀬は眼を閉じた。 「お前、どうなるか、わかってるんだろうな」声が上から落ちてくる。 動けない。だけど、まだ、何か抵抗できないか。 男は、横向きに倒れる広瀬の太ももの上にまたがってきた。 銃が首の付け根に降りてきた。懐中電灯が、顔を照らすのがまぶたのむこうの光でわかる。慎重にまばたきをし、薄く目を開けた。灯りに眼を慣らしながら、開ける。 見上げると、男の顔が思ったより近くにあった。白い息が顔にかかってくる。 男は、懐中電灯を広瀬の顔の目に置いた。手で、頬に触れられた。首にも触り、ネクタイに手がかかった。銃はまだ頭を狙っている。 「なんて面だ」と男が驚嘆の声をあげる。「ガラス玉みたいな目だな。怖いとかいった感情がないのか?それとも、そういう訓練でもうけているのか?何があっても冷静にいるという?」 それから男は唇をゆがめた。「ここで犯してやろうか。思い切り怖がらせて、悲鳴をあげさせてやる。少しでも逆らったことを後悔させてやる」 背筋が凍った。

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