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対峙 #4 side S
祖母との対面は、緊張の極みにいた僕にとって、実に呆気ないものだった。自宅を出発してからずっと身構えていた僕は一体何だったのだろう。
目の前にいるこの人は…本当に冬真を…自分の子供を殺めようとしたんだろうか…
客間に入るなり、祖母、いや、弥生さんはいきなり大の字に寝転がった。
「弥生さん、どうしたの?はしたないわよ。お客様の前で…」
織枝叔母さんは、小さい子を諭すように言う。
「お…きゃく…さま?」
弥生さんは寝転がったまま、首だけを反らし、虚ろな瞳で僕を見つめた。
「だれ?」
「こちらは真祐君。私達の遠縁に当たる子よ。」
「はっ…はじめまして…」
「しんすけ…おにいさま?」
お兄様と呼ばれ、一瞬戸惑った。僕を年上だと思っている弥生さんとどう向き合ったら良いのかさっぱり分からなかった。仕方なしに叔母さんに視線を送ると、叔母さんは深く頷いた。その頷きで僕は悟る。とにかく、今は彼女に全てを合わせて欲しいのだと。
「うっ…うん。」
「おにいさまは…おいしゃ…さま?」
「ううん。大学生。でも、どうして?どうして僕を医者だと思ったの?」
尋ねても返事は帰って来ない。彼女は虚ろな瞳のままずっと宙をみていた。しかし、返事を諦めかけた頃、弥生さんは口を開いた。
「るりちゃん…」
「るりちゃん?」
「るりちゃんのコホンコホン…なおした…おにいさまだと…思ったの…」
話が全く要領を得ない。それでも僕は、弥生さんに話を合わせる。
「そっか…そのお兄さんはとても大事な人なんだね。弥生さんにもとっても、るりちゃんにとっても。」
「おにいさまは…」
「ちょっと待って!やっぱり、お兄様は恥ずかしいな。僕、そんなタイプじゃないもの。う〜ん……そうだなぁ……あっ、そうだ!僕ね、弟がいるんだけど。」
「おとうと?」
「うん。もうすぐ小学生。その弟がね、僕のこと『しんちゃん』って呼ぶの。だから、弥生さんもそう呼んでくれないかな?」
「しんちゃん?」
「そう。しんちゃん。」
「しんちゃんの…おとうと…」
「うん。僕の弟は冬葉っていうの。冬葉はね、僕とは違って、とても可愛くて、優しくて、みんなの人気者なんだ。」
「しんちゃん…も…」
「えっ?」
「しんちゃんも…すてき…」
弥生さんは頬を朱に染めながらそう言い、そして、僕と目が合うと、プイっと顔を背けた。この時、本来の彼女に会えた様な気がして、僕は思わず苦笑した。
なぁんだ…目の前にいるのは女の子。
無邪気で可愛い…普通の女の子。
僕は何を恐れていたのだろう…
何を悩んでいたのだろう…
しばらく背を向けていた弥生さんは、突然、起き上がると、僕を見つめた。その瞳はやはり虚ろなまま。だけど、心のどこかで僕を歓迎してくれたのだろう。その後、僕は彼女の宝物を見ることと、『やよちゃん』と呼ぶことを許された。
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