49 / 132
晴れの日に #5 side T
「おーい!パパ〜!とうまパパ〜」
両手を上げ、小さく飛び跳ねる我が子の背中には、体よりも大きなランドセル。その微笑ましい姿を見て僕は思う。
どうか…健やかに。
そして、好奇心旺盛な君が…わくわくするような日々が…この学校生活でたくさん訪れますように…
「冬くん…ごめんね…待たせて…」
「だいじょうぶだよ。ようすけパパは?」
「今度はようすけが…つかまっちゃって…」
「しんちゃんのパパだから?」
「うん。」
「なんかへんだよね。しんちゃんだけおきゃくさまのせきだったり、こうちょうせんせいのおへやにいかなくちゃだったり…しんちゃんは、ふゆくんのおにいちゃんってだけなのにね。」
「うふふふ…そうだね…真くんは冬くんのお兄ちゃん。それだけなのにね…うふふふ…」
「そうだよ。ねぇ、パパ!ふゆくんとすわってまってよう。ふゆくん、パパにみせたいものがあるんだ。」
「ありがとう…冬くん。何かな?見せたいものって…」
「これ。」
冬葉は学校から頂いた自由帳を取り出した。
「もう…絵を描いたの?」
「ちがうよ。ふゆくんは、もうかんじがかけるようになったんだ。ジャーン!」
広げた自由帳には拙い文字で『岩代』と書かれていた。
「冬くん…これどうしたの?」
「パパもビックリちゃんなの?へんなの。これはね、パパがくるまでおはなししていたおばちゃんのなふだにかいてあったかんじなんだよ。」
「どんな人…だった?」
「う〜ん…わかんない。でも、うみの…とか、いわさき…とかいってた。それと、しゅんパパのおともだちだっていってたよ。あっ、そうそう、おなまえは、さやかちゃん。」
「来たんだ…岩代さん。他には?他に何か言ってなかった?」
「う〜ん…あとはね…さやかちゃんは、ときどき、ほけんしつのおてつだいをしてるっていってた。それから、ふたりでおやくそくしたよ。ふゆくんはがっこうのおぺんきょうがんばって、さやかちゃんは、おくすりのおぺんきょうがんばるって。おともだちが、ずっとびょうきなんだって。なおしてあげたいから、おくすりのおぺんきょうしてるんだって。」
「そう…」
保健室の手伝いなんて…ウソ。
冬葉の…我が子の入学式を…こっそり見に来たんだ。もしかしたら…僕たちが気が付かなかっただけで、真祐の時もこっそり見に来たのかもしれない。入学式だけじゃない、公開授業や運動会、卒業式も。聞いてみたい。だけど…聞いたところで、きっとはぐらかすに違いない。あの人はそういう人だもの。
「ねぇ、ふゆくん…」
「うん?」
「その…さやかちゃんのこと…忘れないで。」
「うん!でも、なんで?」
「これは…パパのカンなんだけど……さやかちゃんは…きっとまた、冬くんに会いにくると思う。」
「おぺんきょう、がんばってるか、みにくるの?」
「うん…それもそうだけど…それよりも…冬くんが毎日…元気で楽しいかどうか…見に来ると思う。それから…冬くんとたくさん…お話したいと思ってるんじゃないかな…きっと。」
「ふゆくんとおはなしして、そんなにたのしかったのかな?」
「えっ?」
「さやかちゃん、いってたの。『おまえとはなせてたのしかった』って。」
「そう…」
「あっ!こんどさやかちゃんにあったら、ちゅういしなくっちゃ!『おまえっていっちゃいけないんだよ』って。」
「そうだね…さやかちゃんは口が悪いから…」
「おくちが…わるいこ?」
「う〜ん…ちょっと違うかな…おうちに帰ったら…調べてみようか?僕と二人で…」
「うん!あと、きのこのずかんもみたいな。きのこのおうたうたってたら、かわいいきのこちゃん、みたくなっちゃった!」
「うん…」
「おやくそくね!」
僕の元に舞い降りたこの愛しい小さき命と
その命をこの世に送り出してくれた口の悪い友。
この世で無二の存在…愛するパートナー
何よりも誕生を切望した、愛する人の遺伝子を継承した命。
そして…僕らの全てを静かに見守り、手助けする人…兄のように。
今日は冬葉の入学式。
その日は…それら全てに感謝する日。
ともだちにシェアしよう!