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本降りになったら #6 side S

高らかに笑うおじさんは、呆然とする僕に気が付くと慌てて謝罪した。 「いやいや、失敬、失敬。悪気はないんだ。ちょっと思うところがあってね。まっ、それは後で話すとして、実はもう一つ君に見せたい物があってね。」 おじさんはそう言って、鞄の中から見覚えのあるものを取り出した。それは、僕が執筆の際使用しているPCと郵便物の束。 「ベストセラー作家の商売道具を運ぶなんて初めての経験だからね。この中に未発表の作品があるんだと思うとドキドキしちゃったよ。」 「これ…どうしたんですか?」 「病院で菅野君に会ったんだ。これを僕に預かっていて欲しいって託された。今はきっと、心が追いついてなくて、見たくもないだろうけど、そのうち必要とする時が来るはずだからって。」 「直……」 「ちょっと前だけど、専務のお遣いで菅野君がレストランへ来たことがあってね。そこで君達の近況を聞いたんだけど、彼ね、最後にこう言ったんだよ。『冬真さんは神様に選ばれちゃった人だから、何があっても全力で守らなくちゃいけない』って。何だか変なこと言うなって思ってさ、聞いたんだ。その言葉の意味を。彼言ってたよ。自分も含め冬真君以外の家族は全員元気そのもの。たまに冬葉君が転んで怪我するくらい。床に伏せるような病気や怪我は誰もしない。でも、もしかしたら、それは冬真君が全て身代りになってくれてるんじゃないかって思う時がある。我慢強い冬真君を神が選んだ。冬真君が皆を守るために一人身代わりになってくれているとしたら、そんな彼を自分は全力で守る義務があるって。それを聞いてね、思ったんだ。この子は若い頃の葉祐君によく似てるなぁって。今日、再会してますますそう感じたよ。まぁ、君が選んだ人だ。それも道理だろう。そして、君。君も…本当によく似てる。会ったこともないし、遺伝子も違うのにね…」 おじさんは少し視線を落としてから、その視線をサイドボードのフォトフレームに送った。 ******************** 9月1日よりこちらのサイトにて新しいお話の連載を始めました。タイトルは「Mon amour」。不審者に間違えられた大学の先生と、間違えたコンビニ店員のお話です。良かったら読んでみてください。

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