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本降りになったら #7 side S

「そんなに…似てますか?僕…」 視線をサイドボードのフォトフレームへ移したおじさんを追うように、僕も視線を移す。 「もちろん容姿は似てないよ。でもね、その強い正義感とか義務感とか真面目過ぎるところとかね。里中光彦って男は、普段はとても冷静で穏やかな男でね。そういうところもよく似ている。そんな光彦が姿を消した時、皆、信じられなかったよ。あの光彦がそんなことをするなんて。」 「姿を消す?」 「ああ、君はその辺の事情は知らないんだね。でもまぁ、これぐらいは大丈夫だろう。君のおじいさんはね、おばあさんと駆け落ちをしたんだよ。」 「えっ?やよちゃんと?」 「やよちゃん?ああ、弥生さんのことだね。そう、弥生さんと。弥生さんのお父さん、つまり、君のひいおじいさんが二人の交際に大反対でね。あの時は何でそんなことって、普段の光彦からは信じられなかったけど、彼のあの正義感や義務感みたいな物に何かが触れて、彼を突き動かしたのかなって思ってる。正義感や義務感って、必要なものだけど、それが強すぎると実はとても危ういものでね。下手すると過剰な自虐性を伴う時があるんだよ。まさに、今の君がそうだろう?冬真君とのこと。冬真君の世話に疲れたっていいじゃない。どこが悪いの?人が疲れを訴えるのは当たり前でしょ?君は暴言を吐くほど疲れ切っていたんだ。疲れたら休めば良いんだよ。でも、君はそれすらもしないで、ずっと自分を責めている。ここにいることも逃げ込んだって思ってる。どうして?疲れたら立ち止まって、休めば良いんだよ。休むことは放棄とは違う。また歩き出すための大切なステップなんだ。君が冬真君をずっと見てきたように、冬真君だって、君をずっと見て来たんだよ。君の言う箱庭の片隅で震えながらもね。そんな彼の望みは、自分という足枷のない君を見ること。自由に羽ばたく君を夢見てるんだ。」 「そんなの…無理です。そんなことしたら、今度は葉祐が…」 「そうだね。だからこその休憩なんだよ。例えば、日帰りや2〜3日で良い。君が行ってみたいと思った場所に行ってみたり、したいことをして、リフレッシュした君を見せてやったらどうかな?それだけでも違うと思うよ。土産話の一つでもしてやってさ、それが冬真君にとって一番の薬になると思うよ。さぁ、考えてごらん?ゆっくりでいい。君は今、一番何がしたい?」 「僕が…したいこと…」 「そう。何でも良いよ。今の君の一番。」 「僕……僕は…今…一番…冬葉に会いたい。」 そこから堰を切った様に涙が溢れ出し、すぐに嗚咽に変わる。おじさんは僕の頭を優しく撫でた。 「そっか。じゃあ、明日この家に招待しよう。狭くてびっくりしちゃうね。きっと。」 おじさんは直ぐに将吾おじさんに連絡した。

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