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不思議な子 #1 side N (Nishida-san)
「こんにちは。さとなかふゆはです。」
限りなく初対面に近い友人の孫。あまりにも友の面影があり過ぎて、油断すると涙が出そう。最初の印象はそんな感じ。でも今は全く違う。この子は不思議。孫で慣れているはずの繋いだ小さな手からも何か美しいものが流れてくる気がしてならない。何だろうこの感じ…
「ねぇ、おじちゃん?」
「何だい?」
「おじちゃんはどのパパのお友だち?ようすけパパ?とうまパパ?しゅんパパ?」
「うーん。難しいなぁ…おじさんはね、三人とも友達たげど、一番の仲良しのお友達は冬葉君のおじいさんなんだよ。」
「えっ?うらのじいじ?」
「裏のじいじ?ああ、海野のお父さんのことだね。ううん、違うよ。う〜ん…何て説明すれば…あっ、そうそう、冬葉君のおうちに写真が飾ってあるだろう?赤ちゃんと男の人の。」
「うん!」
「その男の人、君のおじいさんなんだよ。僕はあの人のお友達なんだ。」
「あの人、ふゆくんのじいじだったの?」
「そうだよ。知らなかった?」
「うん。ふゆくんは、とうまパパかなっておもってた。へぇ〜。ねぇねぇ、ふゆくんのじいじって、どんな人?」
「とても優しい人だったよ。皆、彼のことが大好きでね。男の子も女の子も、皆お友達になりたいって思ってた。」
「じゃあ、とうまパパといっしょだね!」
「冬真君と?」
「うん。みんな、とうまパパのことだいすきだもん。でもざんねん!とうまパパはふゆくんとけっこんするんだよ。うふふふ。」
「結婚?」
「うん。ふゆくんが大きくなったら、けっこんしきするの。今は、ふゆくんのせが小さいからダメなんだよ。」
「結婚と身長が関係するの?」
「うん。今はね、ふゆくんが小さいから、パパとダンスがおどれないでしよ?それに、王子さまのおようふくも大きいほうがカッコイイから。」
「誰が言ったの?」
「しんちゃんだよ。ふゆくんがパパはシンデレラみたいなドレスがいいっていったら、しんちゃんが『じゃあ、王子様も王子様の衣装がいいよ』って。」
「なるほど。さすが真祐くんだね。」
「しんちゃんはすごいんだよ。ふゆくんのおにいちゃんなのに、入学しきのとき、一人だけとくべつなおせきだったんだ。」
「特別な席?」
「うん。先生からきいたんたけど、あのおせきは、らいひんせきっていって、とくべつなおせきなんだって。」
「来賓席か!真祐君は著名な文化人だからね。」
「ちよめいなぶんかじん?」
「そうだなぁ…皆が知っている、お勉強になるような物を作っている人ってかんじかな。」
「しんちゃんってそんなにすごいんだね!」
「えっ?知らなかったの?」
「うん!だって、しんちゃんはふゆくんのおにいちゃんで大学生。そうてしょ?」
「そりゃ、そうだけど…」
「それでいいの。しんちゃんはふゆくんのおにいちゃん。それだけだよ。うふふふ。それだけなのに、しんちゃんは…それをすぐわすれちゃうんだ。わすれちゃダメなのにね。」
社長宅から我が家へ戻る道の途中で、彼はそう言って僕に微笑んだ。その笑顔の奥にある瞳の色は、父親譲りのアンバー。全てを見透かしている様な透明度の高い不思議な瞳。
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