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温もり #1 side N

夏が過ぎ、秋もそろそろ深くなろうかという頃、パパの退院が2日後に決まった。当初は2週間の予定の入院だったが、一進一退を繰り返し、今日までになっていた。想像をはるかに超える、とても繊細な人間と俺は生活を共にしているのだと改めて肝に銘じた。 「直くん?」 「うん?」 「もう秋なんだね…」 「どうしたの?急に。」 「さっきおやつに…さつまいもが出たものだから…」 「さっきの蒸かし芋?ああ、それで。」 「随分と長い間しちゃったな…入院。」 冬真パパはちょっと伏し目がちに言った。 「その代わり、ボディメンテナンスはしっかり出来たんだから、良いじゃない!当分世話になることはないよ。きっと。」 「うん…」 パパはそのまま窓の外を眺め、呟く。 「空が…高い…」 「うん。」 「子供達は…元気かな…楽しい毎日を…過ごしているかな…」 「大丈夫!じゃなかったら、ここを出禁にした意味がないだろ?」 「うん…」 パパは見舞いに来ること、自分に関することの全てを二人に禁じた。 「君には本当に悪いことをしたね…ずっと僕の世話ばかり…」 「そんなことないよ!俺がしたかったことだし、実家から通わせてもらってるし。おかげで、たまの親孝行もさせてもらってる。ただ、問題はその両親から早く出て行けって言われちゃってること。」 「菅野のご両親は逞しいね…羨ましい…」 「そうかぁ?女ってさ、何で皆あんな感じなのかね。それに比べて、冬真パパとの時間はホント癒やしそのものだよ。」 パパは耐えきれなくなって笑う。いつもと同じ、小さく。だけど、その笑顔を見ると、俺は心底、幸せな気持ちになった。 コンコン 病室にノック音が響いた。返事をすると、程なく扉が開いた。 「西田さん。」 西田さんに会えた喜びなのか、冬真パパは普段よりも少しだけ大きい声で彼の名を呼んだ。 「やぁ!明後日退院なんだって?よかったなぁ。」 「こんにちは!どうぞこちらにお掛け下さい。」 俺は椅子とお茶を西田さんに勧めた。 「お気遣いどうもありがとう、菅野君。君も元気そうで良かった。冬真君も随分顔色が良くなったね。これなら安心だ。」 「ありがとうございます。」 「今日はお土産があってね。いや、もう退院するのだから、退院祝になっちゃうかな。」 西田さんは自身の鞄からゴソゴソと何かを取り出し、パパに手渡した。

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