67 / 132

男の背中 #1 side N

「これ…は?」 「開いてごらん。」 西田さんが冬真パパに差し出したもの。それは小さなアルバムだった。西田さんに促され、パパを丁寧にアルバムを開く。どのページも愛おしそうに指先で撫でながら。 「すみません。俺も見て良いですか?」 「ああ、もちろん。」 隣に立ち、覗き込むと、そこには全て真と冬葉の写真が納められていた。二人共半袖を着ているから、きっと夏に撮ったものだろう。良い写真ばかりだった。二人の笑い声が聴こえてきそう。パパはまたゆっくりとページをめくる。そして、途中で動きを止めた。そのページには海を背景に飛び切りの笑顔の二人が写っていた。 「ああ、それね!楽しそうだろう?二人で旅行に行ったんだよ。」 「旅行?」 「うん。海水浴。一泊二日だったけどね。知り合いの…藤原さんっておっしゃったかな?その方が経営されてる旅館にね。面白いんだよ!この時、冬葉君がビーチで色々な約束しちゃうから、真祐君は大変だったらしいんだよ。帰って来た時、かなりぐったりでね。珍しく愚痴なんてこぼしたりして。」 「あははは。いつぞやのひな祭りと同じだね。冬真パパ。」 パパを見れば、パパの綺麗な瞳から涙が溢れる始めていた。俺はベットの端に座り、左手でパパの肩を抱き、右手で涙を拭った。 「良かったね!冬真パパ。パパが望んだ日々を二人は過ごしていた。」 「うん…」 「うちには今、冬葉君がいるよ。」 「冬葉が?真は?真はどこに?」 驚く俺に西田さんは笑顔で答える。 「真祐君は社長宅。」 「えっ?何かあったんですか?」 「いやいや。今週末に市内でハロウィンパレードがあるんだ。冬葉君がそれに参加することになってね。そのコスチュームをうちの家内が作ってるんだけど、それがどうしても気になるみたいでね、毎日、進捗状況を確認にするものだから、それなら、うちにいたらってことになったんだよ。僕は良いって言ったんだけど、二人で世話になるのは悪いからって、真祐君は社長宅に行ったんだ。」 「真らしい…」 「二人共良い子だね。性格は笑っちゃうほど真逆だけど。」 西田さんのその言葉でパパはやっと笑顔を見せた。 「心配しないで。真祐君はすっかり元気だよ。執筆も始めた。それから、彼にはずっと言い聞かせていることが一つあってね。苦しくなったら、いつでもうちに来なさいって。それで良いよね?冬真君。」 「はい。ありがとう…ございます。あの子を…僕の宝物を…救ってくださって…ありがとうございます。」 「いやいや。君の宝物なら僕の宝物でもあるからね。だって、君自身が僕の宝物だもの。」 西田さんはそう言うと、パパの手を握ってポンポンと2回軽く叩いた。 「さぁて、帰ろうかな。家でうさぎ君が首を長くして待ってるから。」 「うさぎ?」 「ああ。冬葉君のハロウィンの仮装の話。どうしてもうさぎになりたいって言ってね。ずっとうさぎの練習をしている。今日は帰りにチョコレートケーキを買って帰る約束なんだ。」 俺は吹き出し、パパも小さく笑う。うさぎになりたがる、チョコレートケーキを心待ちにしている冬葉の姿が容易に想像出来た。きっとパパも同じだろう。 「申し訳ないけれど、もうしばらく二人を僕に貸してね。二人が帰るって言い出したら、きちんと家まで送るから。ああ、明後日、君が退院することは二人にはきちんと伝えておくからね。」 西田さんはそう言い残すと病室を辞した。 決して大柄ではない、中肉中背の西田さんの背中がとても大きく広く見えた。格好いい男の背中はこんなにも広いもんなんだって、俺はこの時、そう強く感じたんだ。

ともだちにシェアしよう!