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声なき叫び #1 side N

『何でかな?こっちはね、全てのものが白っぽく見えるんだ。ビビットな物を始め、色が溢れているのに…不思議でしょ?特に空。空の色がとにかく薄く感じるんだ。普段、森のような場所に住んでいるからかな?都会ってそんなものかもしれない。思い込みかなぁ…そうだとしたら…人間って、本当タチ悪いね。』 これは今朝届いた真からのメール。 真は素直じゃないから言えないんだ。 『寂しい』って。 たった一言なんだけど。 冬真パパの入院を境に、西田さんち、平塚のじっちゃんちと渡り歩いた真は、当初の予定通り、そのまま東京へと向かった。販売戦略を大々的に仕掛けようと意気込む出版社の熱意と担当者の説得に負け、新刊のプロモーション活動を主に、その他、細かい打ち合わせ、諸々を兼ねて、東京で一人、ホテル暮らしをしている。パパが退院してからというもの、真はパパに毎日連絡を入れていた。パパも『大変だから…いいのに…』と言いつつも、真からの連絡を楽しみにしている。しかし、昨晩、通話を切った後のパパの様子は明らかにおかしかった。 『どうしたの?』 『ううん…』 パパはそれきり何も言わなかった。 このメールから、真が静かに叫んでいるのが分かる。『寂しい。そばにいて欲しい。』と。今すぐ東京へ駆けつけてやりたい!そばにいてやりたい!だが、パパを日中、一人にするワケにはいかないし、真の元へそのまま行ったところで、素直に喜ぶとも思えない。自分のことより他人を優先させる真。ひょっとしたら怒り出すかもしれない。どうしたものか…ふと、パパに視線を移すと、パパが俺を見つめていた。 「えっ?…何?どうかした?」 「ううん…」 「心臓に悪いよ〜パパ!自覚して!パパみたいな色気だだ漏れの人に見つめられると、何でもなくてもこっちはドキドキしちゃうんだよ。」 「ごっ…ごめん。悪気はなくて…でも…直くん…心配なんじゃない?真くんのこと…」 「へっ?何で?」 「気がついているんでしょ?真くんのこと…」 「う、うん…疲れているというか…寂しいみたいだね…直接は言わないけど。まぁ、用事があれば別だけど、行ったとしても、素直に喜ばないだろうし、弱い自分を見せたくないだろうしね。『何で来たの?早く帰れ』って言われるのがオチだよね。」 「ごめんね…面倒な息子で…」 「いいや。それとなく励まし続けるよ。励ましてるってバレないようにさ。あと、一週間ぐらいでしょ?帰って来るまで。」 パパと二人、そこで黙り込む。その長い沈黙を破ったのは、パパの方だった。 「あっ…」 「えっ?何?」 「直くん…僕…ひらめいちゃった!チェストの一番上の引き出しに入ってる葉祐のファイル取ってくれる?青色の。それから君は…そうだなぁ…2泊ぐらいの旅の支度を始めて!それが終わり次第、出発だから…」 意味が分からなかった。それでも…パパが喜々としていることが唯一の救いで、それが間違いでないと確信させるには充分だった。

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