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天使との旅路 #1 side T

「ねぇ、パパ?」 「うん?」 「ようすけパパがいなくて、さびしくなったら、ふゆくんにいってね。ふゆくんがすぐに、ぎゅっしてあげるからね。それから…ぐあいがわるくなったら、すぐにいってね。ふゆくん、ケータイでおでんわするから。」 「うふふふふ…ありがとう。冬くんがそばにいてくれるだけで、パパはとても心強いよ。」 買ってもらった子供用の携帯電話を握りしめた冬葉は、まるで花を咲かせたような明るい表情をした。 「パパ?しんかんせんって、すっーごく、はやいね!おそとみてると目がくるくるしちゃう。」 「本当だね…冬くんは新幹線初めてだったかな?」 「うん!とうきょうへ行くときはいつもようすけパパの車だったから、今日はしんかんせんでちょっとうれしい!でも…」 「でも?」 「ようすけパパには、ちょっとかわいそうだけど…とうまパパと二人でお出かけもうれしい。」 冬葉の顔は花々が次々と咲き誇るよう。そんな冬葉に対して、僕は不安でいっぱいだった。 時期尚早 そんな言葉が頭を過る。あの思慮深い真祐にでさえ、15年以上の月日を費やした。こんなにもまだ小さくて無邪気な冬葉と岩崎家との接触は、危険なのではないだろか?広行伯父様のことだから、変な介入があったら全力で止めてくれるに違いない。でも… 『もっと信用しようぜ!冬葉のこと。』 今度は直くんの言葉が頭を過った。あれはひと月程前、長らく東京での仕事が続き、途方に暮れていた真祐の元へ行ったはずの直くんが翌日、とんぼ返りで戻ってきて言った言葉。 『パパの気持ちも分かる。だけど、ボス…じゃなかった、広行さんも高齢だし、俺は会わせるべきだと思う。じゃないとパパ自身が後悔すると思うんだ。何よりも…もっと信用しようぜ!冬葉のこと。この家で一番、豪快で大胆な男は冬葉だろ?そんなアイツを誰が縛り付けられると思う?家族でアイツらしさを尊重して、大事に育ててきたんだろ?アイツなら大丈夫。それに広行さんだって、真や冬葉の前では、岩崎家の人間っていうより、ただの親戚のじいさんって認識でいると思う。もちろんパパのこともね。』 僕は勘違いしていたのかな。 そう…冬葉は自由なんだ。僕とは違う。 僕が歩んできたような人生を… 冬葉が選ぶワケないんだ。 そんなことにも気が付かないなんて… 「パパ?だいじょうぶ?」 我に返ると冬葉が心配そうに僕を見つめていた。 「ああ、ごめん。ちょっと考え事していてね。そうだ!冬くん、チョコレート食べない?」 「えっ?」 冬葉の顔にまた花が咲く。しかし、瞬時に曇る。 「でも…おやつのじかんじゃないのに、かってにたべたらおこられちゃうよ。」 「うふふふふ。冬くんは真面目だね。大丈夫。これはね、パパが食べたくて、さっき駅のコンビニで買ったんた。それを二人で食べるんだから、平気平気!」 チョコレートの包装を解き、半分手渡すと、冬葉の顔はまた曇る。 「パパ…これはチョコレートじゃないよ。間違えてかっちゃったんだね。でも、ふゆくんはチョコレートじゃなくてもだいじょうぶだよ。」 「えっ?これはチョコレートだよ。」 「だって…チョコレートなのに白いよ?」 「ああ、これはホワイトチョコレートっていってね、白いチョコレートなんだよ。パパはこのホワイトチョコレートが大好きでね。冬くんもきっと気に入ると思うよ。」 「そうなんだ!いただきまーす!」 ホワイトチョコレートをかじった冬葉は、また顔に花を咲かせる。 「うーっ!おいしーっ!」

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