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ライバル出現 #1 side N
「あれ?」
「あっ…」
…えっ?
月一恒例の真の書店巡りの日。今月のお供は俺!久々の二人っきり。デート気分に水が差さったのはこの瞬間だった。ショッピングモールの書店の通路で鉢合わせた男。結構なイケメン。ちょっと渋目。
「ご無沙汰しています。お元気でしたか?先生。」
「ええ。それと…先生は辞めてくださいって前にお願いしたでしょう?」
「そうでしたね。すみません。」
「今日はお休みですか?」
「いいえ、これからです。でも、その前に…」
その人は、書店の袋から一冊取り出して見せた。その本は、一昨日発売された真の新刊だった。
「わざわざ買ってくださったのですか?」
「ええ。言ったでしょう?ファンだって。まさか嘘だと思われていたのですか?」
「あなたのことだから、僕を喜ばせようと…」
「それは心外だなぁ。あなたの本は全て持っていると言ったでしょう?嘘ではありません。」
「それはありがとうございます。次からは僕の方からお贈りします。」
「いやいや、それではあなたに何の利益も生じない。それは心外てす。」
「いえ、あなたにお会いする口実になります。」
「それは光栄だ。ですが…」
「お恥ずかしなから、あなたに会うために、僕は重い腰を上げなくてはなりません。あなたは僕の知らない世界の住人。あなたの世界のことが必要な場面も今後増えて行くことでしょう。その世界を、その教えを乞うことが出来るのです。有益だらけではないですか?」
「さすがは作家さん。素敵な言い回しです。それではお言葉に甘えて。いらっしゃる際は連絡ください。今度は心地良く過ごして頂けるよう、最善を尽くします。」
「ありがとうございます。」
「では、私はこれで。」
男はきれいなお辞儀をし、俺にも同様に頭を下げた。そして颯爽と歩みだす。
おいおい…いつの間にこんな渋目のジェントルマンと知り合っているんだよ…
仕事で?いやいや、どう見ても出版社の人って感じじゃねーよなぁ。スゲー華やかな人だし…芸能人って言えば、そんな気もする。
はっ!もしかして俺が知らないだけかも。対談とかした芸能人だったりして…
「直?」
「……」
「直?」
「……へっ?」
「どうしたの?」
「いや、別に。」
「僕の方はだいたい終わったけど、直の方は?」
「俺もだいたい…うん。大丈夫。」
「じゃあ…あとは冬葉の本と冬真の写真集をチョイスしたら終わりだね。どこかでお茶でも飲んで帰ろうか?」
「うっ、うん…」
「どうしたの?何か変だよ?」
「あーいやいや…うん。じゃあ…まずは冬葉のから探すか?」
「うん。」
『あの人、誰?』
聞きそびれた言葉。真に限って浮気なんてことはないだろう。だけど、どういう関係なんだろう?俺の知らないところで二人は知り合って、真はこれからもあの人と繋がりを持ちたいと考えている。本を贈る…それがその証拠。仕事で知り合った人と仮定しても、真がそういう感情を抱くことはかなり珍しい。そこがまた歯がゆい。
あーあ…
晴れない気持ちのまま、真に着いて回り、冬葉とパパのお土産をチョイス。会計後、いつものように宅配の手続きも済ませると、俺達は書店を後にした。それから、真が時計をチラリと見る。
「2時か…」
「茶…だったよな。」
「うん…でも、ちょっと待って。」
真はスマホを取り出し、どこかへ電話を掛けた。程なく『あっ、お父さん?』と言ったから、掛けたのは自宅だと分かった。俺と目が合うと、真はすすっとその場から離れ、何やら小声で会話を始めた。通話を切り、戻って来ると、頬が少し朱くなっていた。不思議に感じたが、あの男のことが気になって、何かを考えることが億劫になっていた。
「お待たせ。」
「おう。」
「行こうか。」
「ああ。」
それからは二人で無言で歩いた。ショッピングモールを出て程なく、真が口を開いた。
「ねぇ、直?」
「うん?」
「行こうか………ホテル……このまま…」
「えっ?」
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