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ライバル出現 #6 side N

「はぁ………」 「すみません。」 ため息混じりの俺に、向かいに立つバーテンダーは苦笑混じりに謝罪する。 「えっ?何で?」 「いえ。」 「えっー?気になります。言ってください。」 「それでは…説越ながら。すみません…ホテルはホテルでも、こんなおじさんのいるバーラウンジで。」 「へっ?何でそれを?まさか真?」 俺は振り返り、視線を背後にいる真に移す。偶然、知り合いの作家先生にバッタリ出くわし、ここから少し離れた場所で立ち話していた。再度、視線をバーテンダーに戻す。 「いえ。」 「じゃあ、何で?」 「お二人の会話から察するに…ですけれど。」 「まさに『探偵はバーに…』ってやつですね。」 「すみません。でも、あなたがご一緒だからなのでしょう。今日はとてもリラックスされているようですね。」 バーテンダーは真をチラリと見た。その視線はあまりにも優しく、その視線に応える真もまた、とても穏やかな笑顔だった。それが俺をキリキリさせた。 「真はこちらには何度も?」 「いえ、今日で3回目です。初めはひと月ほど前です。お仕事のお付き合いで仕方なくといった感じで。」 「2回目は?」 「気になります?」 バーテンダーは少しとぼけた感じで尋ねた。 「気になりますよ。当然でしょう?普段、こういう場所は極力避けるヤツなんですから。他に目的があるのかなって思うでしょう?それに、あなたイケメンだし…」 不貞腐れる俺にバーテンダーはまた苦笑する。バーテンダーが醸し出すこの余裕感と兼ね備えている色気もまた、俺をキリキリさせる。 「2回目はそれから2日後ぐらいでしたでしょうか。」 「そんなに足繁く?」 「いえいえ。ワケあってお貸しした物がありまして、それを返しにわざわざ。」 「何ですか?真が借りたものって。」 「気になります?」 「気になります!」 バーテンダーはとうとう、クスクスと笑い出した。 「失礼。タッパーウェアです。」 「タッパーウェア?バーなのに?」 「ええ、初めていらした日、細やかながらお土産をお渡したものですから。お身体が丈夫ではないとおっしゃるお父様に。」 「パパに土産?………あっ、もしかして…あのペラペラの羊羹?」 「ええ。ご存知でしたか。」 「あなただったんですか…パパ…いや、父はとても喜びました。あの羊羹。でも…」 うっかり喋りそうになる。危ない!ここから先はパパの繊細なプライバシーに関わる。慌てて口をつぐんだ。余りにも不自然な行為だったが、バーテンダーは特に気にもせず、最初から何も聞かなかったの如く、グラスを磨き始めた。しばらく沈黙が続いた。悔しいことに、この間に居たたまれなくなったのは、俺の方が先だった。 「気にならないんですか?話の続き…」 「気にならないと言えば嘘になります。」 「聞かないんですか?」 「ええ。」 「何で?」 「言いたくないのでしょう?」 「まぁ…」 「だからです。それより、おかわり差し上げましょうか?それとも何かお作りしますか?」 「じゃあ、おかわりで!」 「生ビールですね?かしこまりました。」 バーテンダーは綺麗なお辞儀をすると、少し離れた場所にあるビールサーバーに手を掛けた。細くて長い指。愁いを少しまとった綺麗な横顔。余裕のある優しい年上の男。真がこの男に好意を持っても仕方ないとは思う。でも… 真を誰にも渡したくない! 絶対誰にも渡さない! だけど…この男に勝てる気もしない… どうしたら…どうしたらこの二人を引き離せる? どうしたら…この男よりも俺の方が良いと思ってくれる? どうしたら…… はぁ………

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