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家族ごっこ #2 side A(Akagi-san)

恐る恐る手紙を開封する。 差出人の里中葉祐という人物は、書面から、真祐君の父親ということが分かった。その手紙には真祐君やパートナーへの心配りへの感謝の言葉が丁寧に綴られていた。そして、一度会って話しがしたい。連絡をくれないかということが最後に記されていた。 どうしたものかと考えあぐねた。手紙を開封することさえ躊躇ったのだ。まして電話なんて… 一晩考え、結局、連絡することにした。細やかながらも、好奇心のほうが躊躇いを上回った。あの真祐君の父親はどんな人物なのだろう… 『はい。Evergreenです。』 トーンは多少違うものの、真祐君とよく似た声が耳に飛び込んで来た。 「里中葉祐さんの携帯でしょうか?」 『ええ。』 「ご連絡が遅くなり申し訳ございません。私、お手紙を頂きました赤城と申します。」 『ああ!赤城さん!ご連絡ありがとうございます。初めまして、真祐の父です。』 「初めまして、赤城和臣(あかぎかずおみ)と申します。連絡が遅くなり申し訳ございません。」 『いえいえ、お忙しいところ恐縮です。』 挨拶の後、里中氏は手紙と同様、感謝と礼を述べた。それに対し、大したことではなく、礼には及ばないと伝える。そして一番気になっていることを尋ねた。 「あの……真祐君は…お元気でしょうか?」 『そうですね…』 里中氏はそこで黙り込む。 「あの…何かあったのですか?」 『ごめんなさい。お気遣いありがとうございます。そのことも含め、一度会ってお話したいと思っています。勝手なのは重々承知ですが、お時間作っていただくわけにはいきませんか?』 少しトーンが下がった声。それだけで、真祐君が痛々しく元気を装う姿が容易に想像出来た。 「私に?私には何も出来ないと思いますが…」 『とんでもない!私は今の真祐を解放してやれるのは、あなたしかいないと思っています。』 「……私が……ですか?」 『ええ。あなただけだと私は思います。』 父親はきっぱりと断言した。 真祐君を解放? 意味が分からない。意味は分からないが、彼が苦しんでいるのであれば、無条件に手を差し伸べたい。その衝動だけは抑えられなかった。 「分かりました。」 そう返事をし、それから先は、自分でも驚くほどの行動に出た。早い方が良いだろうと、直近の自分のシフトを伝え、父親と会う日を早急に取り決め、通話を終えた。返事をしてからの行動はほぼ無意識。自分の中に違和感が残る。しかし、嫌な気はしない。その理由は明解で、こんな風に誰かのために後先考えず行動を起こしたのは、恐らく初めてのことだから。 殺風景な部屋のリビングにある小さなカレンダー。そこに初めて予定を書き込んだ。

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