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家族ごっこ #4 side A (Akagi-san)

「風邪…ですか?」 寝室から戻ってきた里中さんに、開口一番尋ねた。 「熱はないですからね…違うと思います。でも、この様子だったら、今すぐ病院とかという感じでもないてすね。」 里中さんはやっぱり爽やかに笑う。パートナーがあんな状態なのに。この家ではこれが当たり前なのだろうか?バーカウンターで俯きがちにぽつりぽつりと話す真祐君の表情が脳裏を過る。 「赤城さん?」 「はい…」 「さっきの私のパートナー、冬真っていうんですけれど…冬真は真祐にあなたという友達が出来て、とても喜んでいました。あなたはきっと、真祐のオアシスなんだろうって。」 「オア…シス?」 「砂漠の中にぽつんと存在するオアシス。疲れ果てた真祐が、唯一休める場所だったのかもしれないねって。必要以上に語らない、何の詮索もしない、一定の距離を保ちつつ、そっと寄り添ってくれる…そんなあなたに会うと、真祐は少し気が楽になったのかもしれないって。あの二人はよく似ていますから、そういうの語らなくも、よく分かるのだと思います。現にあなたにお会いした日、真祐は珍しく饒舌で楽しそうだったと、冬真も嬉しそうに話してました。赤城さん、大変勝手なお願いであることは承知していますが、今まで通り、アイツと接しては頂けませんか?」 「しかし…」 「今は誰よりも直生がそれを望んでいます。」 「直生君が?」 「先程も言った通り、真祐にとって、あなたは自分の気持ちを吐露出来る、数少ない存在だと思うんです。本来、その役目は親である私なのだと思います。しかし、私にはそうしてやることは出来ませんでした。真祐とは親子というよりも、共に戦い抜く同士になってしまったんです。アイツがあなたにどこまでお話ししたのか分かりませんが、うちでは穏やかな時間がそう長くは続きません。お恥ずかしい話ですが、真祐がまだ幼い頃、私も冬真のことと初めての育児で正直、手一杯でした。そのせいでしょうか、真祐は幼少の頃から随分と物分りの良い子でした。わがままを言う姿を見たことがありません。幼いながらも私に気遣い、私を助け、私が困らないように早く自立の道を歩んでいた様に思います。こうして私達は同士になっていきました。それでも、直生がうちに来て、随分変わりました。直生のおかげで家族にも笑顔か増えました。真祐もやっと、少しだけ子供の自分を見せるようになりました。直生と真祐は幼なじみでね。直生は子供の頃からずっと真祐の力になってくれました。私にはひた隠しにしている真祐の不安や葛藤を、直生は誰よりも理解してくれています。それを少しでも取り除くため、全力を注いでくれます。本当にありがたいです。でも、直生と一緒にいればいるほど、真祐は余計に気持ちを吐露出来なくなっていったんです。」 「なぜでしょう?だって二人は…」 「だからです。二人が互いの愛情に気が付き、将来を見据える様になった。故に直生もまた、同士になってしまったんです。同士なのに自分だけ楽になろうなんて…とでも考えているのでしょう。そんな中、現れたあなたという存在に、直生は焦燥感と嫉妬を覚えました。真祐にとって自分だけが特別な存在でいたかったのに、そうじゃないことを突きつけられた様な気がした。かつ、あなたに真祐を取られてしまうのではと考え、失礼な態度を取ってしまったのだと…」 「そんな…そんなことは決して…」 「そう。あなたと真祐はそんなんじゃなかった。あなたは真祐にもう自分には会いに来ない様にと告げ、真祐は今、まるで何もなかったかの様に振る舞っています。しかし、無理をしているのが手に取るように分かります。直生はそんな真祐を見て、真祐のことを真っ先に考えてやらず、嫉妬に狂い、浅はかな行動を取ったことを後悔しているのです。」 「違います。浅はかな行動をしたのは私なんです。直生君の存在を忘れ、真祐君の親切に、すっかり甘えてしまったんです。二人が悩み、傷つく必要はどこにもありません。もし、よろしければですけれど…私の話を聞いてください。とても恥しく、つまらない身の上話ですけれど…

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